ウクライナが劣勢を強いられる「一時的な国際環境の流れ」
国際社会が「どれだけウクライナを支援するか」で戦局は決まる
細谷)イギリスとアメリカのシンクタンクの専門家が最近書いた論文で、「attrition(消耗戦)」というものがあります。「ウクライナが勝利するために最も確かな方法は、消耗性を戦うことだ」と言うのです。つまり、いま攻勢に出ると大変な損失が出るけれど、ロシアに攻撃させて消耗させれば、いずれ兵力・弾薬とも限界に達する。いまもロシアは外国からの兵士にずいぶん頼っているところがあります。そういった意味でも、1~2年ほど消耗戦で戦わせる。「長くなるほどウクライナは不利」という意見もあるのですが、同時に経済制裁が効いているので、ロシアには先端的な兵器の部品が入らない。実は「どちらにとっても長くなると厳しい」というのが実情だと思います。 飯田)継戦能力で考えると、ロシアは資源を持っている国です。資源価格の高止まりもあり、戦費の調達が容易になっているのではないかという指摘もありますが、いかがですか? 細谷)それも確かだと思います。最近、欧州で行われたシンクタンク「ECFR」の世論調査によると、この戦争で「ウクライナが勝つ」と答えた人はヨーロッパでも約10%と少ないです。一方「ロシアが勝つ」と答えた人は約19%で、これもそれほど多くない。つまり、ヨーロッパの多くの人たちは「どちらも勝てない」と見ているのです。しかし、ウクライナでは約92%が「すべての領土を獲り戻すまでは戦争を継続するべき」と言っていますから、士気は非常に高い。そう考えると、「どれだけ国際社会がウクライナを支援できるか」で、ほぼ戦局が決まってくると思います。
ウクライナの復興には日本の民生的な支援が必要
飯田)アメリカは国内事情があって、なかなか予算が通らない。ヨーロッパはハンガリーのように、ロシアに対して融和的な国もあります。一方で日本は「日・ウクライナ経済復興推進会議」を行いましたが、インパクト的にはどうでしょうか? 細谷)大きいと思います。特に日本は、基本的に殺傷兵器が送れないので、瓦礫除去や民生支援になります。「なぜ地球の裏側にあるウクライナを日本が支援しないといけないのだ」という意見もありますが、欧州全体と比べると、日本の支援は約20分の1なのです。欧州諸国と比べ、日本の支援規模が小さいということが1つあります。 飯田)約20分の1である。 細谷)一方でベトナム戦争のあと、70~80年代の東南アジアの復興期に日本は政府開発援助(ODA)で経済進出しましたが、それが日本の経済成長につながっています。90年代も同じように、日本はカンボジアへ経済進出しています。そう考えると、ウクライナの特に東部は荒廃していますから、復興する上で日本の民生的な支援は重要になると思います。特に農業です。日本は農業の技術が高いので、農業大国のウクライナに対し、技術支援によって経済を支える。日本とウクライナどちらにとってもWin-Winになると思います。 飯田)確かにカンボジアでも地雷除去を含め、農地の復旧において日本は貢献したと言われています。 細谷)日本は90年代、アルジェリアや中東もそうですが、内戦やテロが多かったマグレブ諸国と言われる地域で商社を中心に進出し、彼らの経済成長を支えていたのです。日本は民間レベルで言うと、冷戦終結後のアフリカを含め世界の不安定な地域に入り、経済成長によって安定化させてきた。日本はその貢献をもう1度振り返る必要があるのかも知れません。