今や「賃上げ」こそが「物価」を押し上げる危険な原因に…「物価対策」の負担を国民に押し付ける政府の無策
物価と賃金の好循環?
しかし、一般には、賃上げの転嫁は望ましいことだと考えられている。 政府は、物価と賃金が上がっていることを「物価と賃金の好循環」であるとし、望ましい現象であると捉えている。日銀は、これを金融正常化を進める条件としている。また、政府は、転嫁を容易にする条件整備を考えている。では、これでよいのだろうか? 前項で、「消費者と労働者が同じグループであり、それらを一括として考えれば」と述べた。しかし、実際には そうではない。 経済全体に賃上げが広がっているといっても、その恩恵から外されている人がいるからだ。第1には、企業に雇用されていない人やフリーランサーなど。 そして、第2には年金生活者だ。年金にはインフレスライドがあるが、同時にマクロ経済スライドがあるので、物価が上がれば年金の実質価値は減少する。 こうした人々は、賃金上昇の恩恵を受けることはなく、物価上昇の被害を受けるだけになる。したがって生活が困窮する。
物価上昇の原因に手を付けない政府の物価対策
賃上げの枠外に置かれた人々の立場を重視すれば、現在の物価上昇は望ましくないものであり、それを阻止することが必要になるはずだ。そして、それが物価対策の基本となるべきだ。 ところが、政府の物価対策は、物価が上昇することを認めた上で、それによって被害を受ける人を救済しようというものだ。物価上昇を抑制するという内容ではない。 この政策にはいくつかの問題がある。第一に、政府の物価対策の対象とされるのは、必ずしも上に述べたような意味で、賃上げの枠外に置かれた人々ではない。ガソリン補助は比較的高い所得の人を対象にしている。 したがって、物価高騰の被害者でありながら、政府の物価対策の対象から外されている人が多数存在することになる。 第二に、政府の物価対策のための財源は、結局のところ国民が負担している。だから、国民全体としては、この施策によって利益を受けているわけではない。 しかも、ガソリン代も電気ガス代も、見かけ上抑えているだけであって、その原因に手をつけていない。従って、物価上昇が賃金上昇によって生じるようになれば、いつになっても物価上昇は止まらず、したがって物価対策もいつになっても止められないということになる。