「早く引退してマッドな何かになりたい」糸井重里73歳、コロナ禍の社長業で思うこと
嫌なことをしてもうけている会社に未来はない
2018年にスタートした「ほぼ日の學校」は、オフライン、アプリ、そしてウェブと間口を広げてきた。 「知の民度みたいなものの総底上げが、やっぱり一番住みやすい社会をつくるんじゃないかなと思うんです」 しかも、目標とする受講者数を掲げている。その数、1000万人だ。 「コミュニケーションをしやすい人同士で循環をつくっていくのは、ほぼ日の良さでもあり、悪い癖でもあったけど、そういう部分を開いていきたいと思ったので、自分を律する意味で1000万人っていうホラを(笑)」 会社の「顔役」でもある糸井だが、早く引退したいともあっさりと言う。
「社長っていう立場だから、田んぼや畑を持っている地主ですよね。みんながそこを耕したり、種をまいたりして、できることも増えてきて。僕としては、一番やりたいのは、その広い田園に特別な温室とかをつくって、『あそこは秘密の変なものを作ってる』っていう、変なおやじになりたいんです。今はまだ、米を何俵とるとか、麦を育ててパンを作ろうとか、全部やんなきゃいけないんで、早く働く田園主から脱して、マッドな何かになりたい。僕は会社のみんなと遊びたいだけなんですよ。仕事だから『ここからここまではやんなきゃな』って言って、我慢は必要ですよ。でも、人間、そんなふうに仕事ばかりで生きられるはずがないんですよ。ケインズは、未来は週15時間労働で済むと言ったけど、できるのは本当にそのぐらいなんじゃないですか」 かつて会社の売り上げの7割を占めた「ほぼ日手帳」は、現在は6~5割の比率になったという。しかし、糸井はこう笑う。 「実際にもうからないことも多いんですけど、お客さんが『やめないでほしい』っていうことがたくさん混じっている。零細企業をいっぱい抱えた中小企業(笑)」
とはいえ、かつて「自分の利益を考えることを休ませる知性」が求められると語っていた糸井は、近年一般化してきたSDGsを早くから実践してきたとも言える。 「株式会社は、お金を預けて増やすための仕組みって定義されちゃうんですけど、『そうとも限らないぞ』っていうのを前々から僕は言ってました。嫌なことをしてもうけている会社は支持されないし、勤めてる人たちのモチベーションも低下しますよね。そこまで含めて考える時代がもう来てるんじゃないでしょうか」 また、企業の中には、一見して雇用者に自由な裁量を与えているようで、実際には雇用者に負担をかけている場合もある。何か問題が起きたときにまず批判にさらされるのは、企業の名前や看板を背負って走っている前線の従業員や下請けであることも多いのが現実。しかし糸井は、企業はきちんと労働環境に責任を持つべきだと明言する。