まるで役に立たないロシアの先端防空システム、その理由を徹底分析
■ 1.ロシア軍防空システムの仕組み ロシアは、前線から100~200キロ以上離れている空軍海軍基地、弾薬庫、作戦軍司令部、インフラ施設の上空を守るために、主に航空宇宙軍の新型の「S-400」(射程60キロ)および「S-300」(同30キロ)の長距離防空ミサイルシステムを配備している。 【筆者オリジナルの図】ロシアのミサイル防空システムと各兵器の機能イメージ (注:最新型の「S-500」があり、その一つがクリミアに入ったという情報があるが、その実態は不明) ロシアの防空システムとそれぞれの兵器の機能は、図1のとおりであり、簡単に説明する。 (1)捜索レーダーが広域の上空を継続的に捜索し、攻撃してくる短距離弾道ミサイル、例えば米軍供与の地上発射弾道ミサイルATACMS(Army Tactical Missile System、エイタクムス)の飛翔をキャッチする。 (2)捜索レーダーが目標をキャッチしたら、追随レーダーがその目標にめがけて幅が細い電波を当てて、追随する。 (3)目標を追随することにより、射撃管制の機器がその目標の未来予測位置を算定する。 (4)その未来位置に向けて防空ミサイルを発射し、目標にめがけて飛翔する。 (5)防空ミサイルはその目標に命中する。その間、追随レーダーの電波が目標を追いかけ続ける。公表データによれば、ATACMSにも命中することになっているが、現実には撃墜されていない。 図1 ロシアのミサイル防空システムと各兵器の機能イメージ そして、これらの長距離防空ミサイルを低空から侵入する敵の巡航ミサイルや無人機の攻撃から守るために、短距離対空ミサイル(機関砲)パーンツィリ(射程20キロ)が配備されている。
■ 2.破壊されているロシア要域防空ミサイル ウクライナ軍は、ロシア航空宇宙軍の要域防空ミサイルシステムをミサイルで攻撃して破壊している。 Oryx情報(2024年06月19日まで)によると、S-300防空ミサイルシステム(ミサイル射程:対航空機200キロ、対弾道ミサイル30キロ)の発射機×10基・防空レーダー×5基、同じく「S-350」(120キロ、30キロ)の発射機×1基、同じくS-400(250キロ、60キロ)の発射機×17機・防空レーダー×4基を破壊したとしている。 ロシア軍のこれらのミサイルは、米欧のパトリオットミサイルの「PAC3」(弾道ミサイルを近距離で撃墜できる)と同等の能力を有する、あるいはそれ以上の兵器と言われてきた。 ところが、そのS-400が主に、ウクライナ軍の短距離弾道ミサイルのATACMSや巡航ミサイルの「ストームシャドウ」などから攻撃を受け、破壊されているのだ。 特に、米国製の短距離弾道ミサイルATACMS(射程300キロの長射程用)が今年(2024)3月12日に供与が承認された後、多く破壊されている。 特徴的なのが、S-400システムのレーダーを含む多数基が破壊されたことである。 具体的には、2024年4月17日に発射機4基、5月15日に射撃統制レーダー1基、同年5月22日に捜索レーダー1基と発射機4基、6月2日に射撃統制レーダー1基と発射機2基が破壊されている。 これは、ロシア防空システムが広域に展開してミサイルを発射する態勢であったにもかかわらず、ATACMSに狙われ攻撃されて破壊されたということである。 図2 ロシア防空ミサイルシステムが破壊されたイメージ