トム・クルーズも乗り回す空飛ぶ「スポーツカー」ホンダジェットの機内は想像以上に静かだった 〝ゲームチェンジャー〟と期待する新型機の性能とは
準備作業を見守っていたホンダの担当者は「ホンダジェットはパイロット1人でも運航できるが、テターボロ空港のように利用者が多い空港では、管制官とのコミュニケーションが重要なので本日は2人にしました」と話した。空港のルールで自由に写真撮影などはできないといい、撮影の際は搭乗するホンダジェット以外の機体が映らないよう念を押された。 ▽坂道を上るように 離陸予定は午前8時半。15分ほど前から搭乗が始まる。エリート2は乗客乗員合わせて8人乗り。パイロット2人やホンダ関係者らと一緒に私も乗り込み、全ての席が埋まった。機内は身をかがめないと移動できないが、着席してしまえば足元はゆったりだ。 飛ぶ際の機体の総重量は重要らしく、この日の取材で使うカメラといった機材の重さや自分の体重も事前申請してある。滑走路に移動。予定時間通りの8時半に離陸に向け機体が加速し始めた。 「キューン」。風を切る音も混じっているのか、車のエンジン音というよりもモーター音に近く聞こえる。スピードが上がるに連れ次第に大きくなる。前後に向かい合う座席の進行方向を向いて座っていたため、車で急加速した時と同じようにシートの後ろに押しつけられるような力を感じた。定期便の旅客ジェット機と比べると機体が安定して揺れがない。窓から滑走路を見ているとスッと機体が浮かび、車輪が地面から離れた。直線道路でスピードを上げ続けた車が楽々と坂道を上がっていくような感覚だ。
走行中の機内は思ったよりも静かだった。会話もしやすく、揺れもほとんどない。ホンダによると、エンジンを主翼の上に載せ胴体から離しているため静粛性が高められ、機内空間の確保にもつながっているという。高度は4万フィート(約1万2千メートル)超と、3万フィート台で飛ぶ民間機より高く飛び、空気抵抗を小さくすることで安定飛行や燃費向上などに貢献していると説明してくれた。 午前9時半過ぎ、パイロットから間もなく到着するとアナウンスがあった。着陸場所は「ホンダ エアクラフト カンパニー」に隣接するピードモント・トライアド国際空港。午前9時53分、機体は滑るように滑走路に入った。離陸時と同様、着地の衝撃をほとんど感じなかったことに驚いた。 ▽ジェット生産会社 ホンダジェットを開発・生産している「ホンダ エアクラフト カンパニー」の敷地面積は東京ドームの約11・5倍の広さで従業員はおよそ1千人。現在、ホンダジェットの機体は全てここで生産されている。ホンダジェットは2015年の「初期モデル」から「エリート」、「エリートS」、そして現行の「エリート2」と新規投入するたびに航続距離や静粛性などで進化を遂げてきた。エリート2の航続距離は2865キロで、東部ニューヨーク州から南部フロリダ州まで給油なしで移動できる。 現在、納入しているエリート2の年間生産機数は20~30機。組み立ては基本的に手作業で、機体のカラーリングは購入者が自由に選ぶことができる。2021年まで5年連続で同じクラスの納入機数トップとなった後、新型コロナウイルス感染拡大に伴う半導体不足といったサプライチェーン(供給網)の混乱により生産は一時落ち込んだ。ただ最近は回復しつつあるという。