NHKドラマ『かぞかぞ』「ふてほど」の河合優実が天才ぶりを発揮、「幸せとは何か」を静かに問い掛ける話題作
◆河合は並みの俳優ではない 第1回で七実によるこんなナレーションがあった。軽く明るい口調だった。このドラマの伝えたいことを集約していた。 「家族の死、障がい、不治の病。どれか1つでもあれば、どこぞの映画監督が世界を泣かせてくれそうなもの。それ全部、うちの家に起きてますけど」 試練が家族に悲劇をもたらすわけではないということ。家族の不幸は不和やトラブルが招くものだろう。 河合は七実に成りきっている。七実はもとから家族を愛していたが、耕助が逝ってから、より家族を大切にするようになった。父娘で口論し、七実が「パパなんて死んでまえ!」と言った直後、耕輔が亡くなったからである。 口には出さないが、この一件を七実は酷く後悔している。それを河合は目の動きだけで表現する。映画界での評判どおり、並みの俳優ではない。
◆「幸せとは何か」を問い掛ける ひとみ役の坂井真紀(54)はトレンディドラマで活躍していた1990年前後から演技力に定評があったが、このドラマが新たな代表作になるだろう。車椅子の生活になって絶望しているが、子供たちのために明るく振る舞っている。そんな複雑な胸中を巧みに表している。 草太役の吉田葵(17)は第96回アカデミー賞で国際長編映画賞にノミネートされた役所広司(68)主演の『PERFECT DAYS』(2023年)にも出演した。 ハンデのある人の役は実際にハンデのある人がやるべきだ。ハンデのある俳優たちはそのチャンスを待っている。米国では以前からからその流れに向かっている。2022年には3大ネットワークの1つであるCBSがハンデのある人に公平な配役をする指針をつくった。 このドラマにはもう1人、忘れてはならない登場人物がいる。ひとみの母親・大川芳子である。耕輔とひとみが倒れるたび、家事の助っ人として岸本家にやってくるパワフルな女性である。美保純(63)が演じている。 教養というものには関心が薄いようだが、人生を知っている。ひとみの元の明るさを取り戻そうと躍起になる七実を静かに諫める。「ひとみはひとみや」。人間が境遇や年齢によって変わるのは仕方がないと考えている。 45分の放送時間で何度も笑わせてくれるが、繰り返し「幸せとは何か」と静かに問い掛けてくる。原作は気鋭の若手作家・岸田奈美氏(32)の自伝的エッセー。観ると元気になる。 文責◎高堀冬彦(放送コラムニスト)
高堀冬彦,NHK,ドラマ
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