ペニシリン系抗菌薬30年ぶり国産化へ その復活を支える職人技【WBSクロス】
Meiji Seikaファルマの岐阜工場では1994年までペニシリンの原薬を製造していました。そして今が再開の最後のチャンスと言われる理由が、技術者の存在です。 山田浩一郎さん(58)。1984年に入社し、生産を中止するまでの10年間、ペニシリンの原薬の製造に携わってきました。 「まさか、またペニシリンの製造が再開するとは思ってもみなかった」(山田さん) 量産を手がけた技術者がまだ残っていたことが、30年ぶりに再開する決め手だったのです。 「165トン槽を滅菌するためには高圧の蒸気を大量に使用する。それを自動でやろうとすると、配管などに負荷がかかり、設備を損傷させる可能性がある。そのためには(発酵)タンクの特性を知る職人技が必要になってくる」(山田さん) 生産を担う若手の育成にも余念がありません。ベテランの技術を伝えるとともに、生産効率を高める取り組みも同時に進め、2025年度の本格稼働を目指します。 しかし、課題もあります。 生産や培養後の廃液の処理などに多くの電力を使うことなどから、中国と比べると製造コストは5倍以上になるといいます。一方で、医薬品は公定価格のため、製造原価に見合う値段をつけることができません。 政府も対策を進めていますが、まだ課題は残されたままです。 「経済合理性がないから撤退できるジャンルでは当然ない。令和のペニシリン工場としてリスタートして、日本の医療を支える。それから抗菌剤市場を活性化するために、投資可能な領域にしたい」(Meiji Seikaファルマの小林社長) 政府も抗菌薬の国産化を後押ししています。Meiji Seikaファルマを含む2つのプロジェクトに対し、あわせて約550億円を補助しています。 抗菌薬は安定供給が必要不可欠なため、経済安全保障や国民の生命を守るという観点からも重要な取り組みの一つです。ただ補助金の対象はあくまでも製造設備に対するもので、中国と比べると生産コストが高い国産の原薬を継続して使えるようにするための仕組み作りが今必要とされています。 ※ワールドビジネスサテライト