排気量の大きいグレードが「松」なのか? ベストなエンジンを選ぶ考え方
V40「T5」に乗る
このラインナップを耳にした時、筆者はV40にベストなエンジンをD4だと予想した。発売の順番はT5が最初だったので、筆者はこの新世代ユニットを始めて体験したのは、昨年暮れに乗ったT5 R-DESIGNだった。 ボルボは1970年代発売の240で国内市場に認知されて以来、農耕馬のような穏やかなクルマというパブリックイメージで見られて来た。それがボルボの個性であり魅力でもあったはずだが、ボルボにしてみればドイツ車が席巻するハイパフォーマンスマーケットをずっと指をくわえて見送って来たことに多少なりとも不満があったようで、ここ5年ほど急速にスポーツ性を強調し始めている。T5 R-DESIGNは言ってみればゴルフGTIの対抗馬として仕立てられたモデルだ。18インチのホイールに225/40の扁平幅広タイヤを履かせるあたりからもその方向性は想像できる。 こういうクルマは誰かに薦められて買うものではないし、しかも敢えて主流のドイツ勢を避けてボルボから選ぶとなると、それはもう完全に趣味の買い物だ。語弊を承知で言えば、ラーメン二郎のマシマシみたいなもの。好きな人は偏愛するかもしれないが、誰でも喜ぶものではない。 少なくとも「何かボルボのクルマが欲しい」という人にはお薦めしない。T5 R-DESIGNはV40で一番上の「松」ではない。速く走れることと引き換えに、ボルボのパブリックイメージでもある穏やかな乗り心地が犠牲になっている。「そういうもの」としては決して酷い乗り心地ではないが、誰が助手席に乗っても快適に鼻歌を歌ってくれるクルマだとは思わない方が良い。この結論は乗る前に予想した通りだった。
本命は「D4」か「T3」か?
続いて、今年の7月に乗ったのは本命のD4だ。ボルボは今後、販売台数の半分がディーゼルになると予想している。それだけにこの新たなディーゼルユニットを搭載したモデルは、戦略的な価格設定になっている。同じ装備を持つガソリン車のT3と比べて、価格差は25万円高に抑えられている。エコカー減税のランクに差があるため実質的な差額は15万円まで詰まる。ボルボの試算によれば、仮に年間1万キロ走るとすれば、ランニングコストの差で3.2年で元が取れると言う。 さて、その2.0ディーゼルターボエンジンはV40に果たしてベストマッチだったのだろうか? 残念なことに筆者はそうは感じなかった。190馬力と40.8キロのトルクを持つエンジンは、1750回転から最大トルクを発揮し、4250回転でピークパワーに達する。低速からたっぷりトルクがあるのだから理屈上悪いはずはないのだ。ところが運転している間中、エンジンルームに猛獣が潜んでいるような感じが拭えない。 クルマにとっての馬力は人間にとってのお金と一緒で、あって困るものではないはずなのだが、そうはならない。ちょっと思い浮かべて欲しい。あなたの財布に普段持ちつけていないような大金が入っていたらどうだろうか? 多分とても落ち着かない。早く家に帰りたい気持ちになったりするのではないだろうか? 筆者はD4に乗っている間、ずっとそんな気分がしたのである。 そうなると、自然と答えが出る。V40にベストマッチのエンジンはT3だ。8月の試乗会に呼ばれて乗ってみても、幸いなことにこの予想は外れなかった。穏やかで軽やかで、動力性能にも不満はない。ヨコシマな心さえなければこれが間違いなくベストだ。ただ、D4の存在が簡単には消えない。差額は前述の通り実質15万円。しかもそれはランニングコストであらかた回収できそうとくる。しかもリセールバリューを考えると損得が逆転する可能性が高いし、しかも速い。T3がベストバランスだと分かっても人間なかなかロジカルになり切れない。欲望と理性のせめぎ合いであり、そこはもう個人の選択ということになるだろう。