「学問のすすめ」だけじゃない。福沢諭吉が説いた「分散投資のすすめ」
「学問のすすめ」だけでなく、「分散投資のすすめ」も
『学問のすすめ』で知られる福沢諭吉は早くから“分散投資のすすめ”を説いてきた。株の投資信託や最近流行のリート(REIT、不動産投資信託)の先駆けでもある。欧米の相場格言にある「1つのカゴに全部の卵を入れるな」と、通じるが、福沢は130年前に述べている。 「日本の金満家がその財産を保存、増殖するの法をみるに、とかくに資本を下すに一、二事物を限る習慣ありて、地面妙なりといえば、もっぱら地面に信頼し、公債確かなりといえば、もっぱら公債に依頼し、一、二事物を偏愛し、他をかえりみるの余裕なきがごときは、はなはだ不安心のことなり」<明治19年(1886年)11月10日付、時事新報> 昔から日本人は付和雷同型が多く、土地がいいとなると、皆土地投資に走り、公債の時代が来たとなると一斉に公債を買うといった調子で、人気に流れやすい。投資対象を1、2の物件に限る癖がある。うさぎや観賞用植物の万年青(おもと)で大もうけした話が伝わるとわっと飛び付き、ブームが起こるが、ブームは必ずパニックに終わる。福沢はそのリスクを避けるためにも分散投資が大切だと説いている。 「財産保存、増殖法の最も安全なるものを求めんと欲する者は、決して資産の全額を挙げて唯一の事物に投入するべからず。必ずやこれを幾部、幾十部に小分けして、その一部を一事物に託し、損益を平均する法を求めざるべからず。生命保険、海上保険、火災保険の類は皆この理に基づき、遠近大小無数の損益を平均してその中をとりたるもの……」 福沢のことを「三田の拝金宗」などと呼んだ人もいるが、福沢のようにお金の大切さ、お金もうけの重要性をくどいほど説いた人はいないだろう。明治という時代のキーワードは「殖産興国」「富国強兵」であった。福沢の教えを実践し、三菱財閥の礎を築いたのが岩崎弥太郎であった。
「株熱の余症恐るべし」 相場の神髄を突いた言葉の数々
福沢は相場の神髄を突いた言葉を数々残している。たとえば「株熱の余症恐るべし」の一節がよく知られる。 「それほど資産のなき人々が身分不相応の株券を所有して不安心の様子なきのみか、なお進んで買わんとする者多きは何ぞや。これを買うはこれを売らんがためなり。これ流行の兎か万年青の一種にして、甲乙丙丁、転々売買の間、ふとした拍子のはずみに人気去り、流行やむときは、それこそゆゆしき騒動なれ。その時機のいまだ至らざるに先立ち、うまく売り抜けたる者は幸運なれども、最後に至りてだれか、災厄を負担する者なきを得ず」 福沢はババをつかむなよと、株熱にうかれる民衆に警告を鳴らす。株を買うのは株を売って差益を稼ごうという訳である。それならかつてのうさぎや万年青投機と変わらない。人気の株券が投資家の手を転々としながら上がっている間はいいが、何かのはずみでその流れが止まると一転暴落は必至である。その時を福沢は心配するのである。