10年間“卒業”できなかったVAIOがノジマ傘下に入る理由
「B2B特化」が奏功した急成長に「B2Cメイン」のノジマが目を付けた
この急成長は、どのようにして遂げられたのだろうか。その鍵は、VAIOが近年法人向け(B2B)市場に力を入れていることがある。 先述のインタビューの中で林氏は「VAIOのPC出荷台数のうち、(時期によって変動はあるものの)おおむね80~85%が法人向けである」と説明した。つまり、現在のVAIOのPC事業の“主戦場”は法人向けなのだ。 このこともあり、同社のPC開発体制は法人向けファーストが貫かれている。法人ユーザーが求める機能を実装してパッケージを構成した上で、それを個人向け製品にも展開する形になっている。 最新モデルのVAIO SX14-R/VAIO Pro PK-Rを例に取ると、法人向けモデルであるVAIO Pro PK-Rがあくまでも“先”にあり、それを個人向けにリパッケージしてVAIO SX14-Rが生まれた――そういうことになる。 法人向け優先であることの象徴が、両モデルに搭載されている「VAIOオンライン会話設定」というツールアプリだ。両モデルの3次元ビームフォーミングが可能なマイクを利用することで、より高度なノイズキャンセリングを実現している。 こうした機能は、Microsoft TeamsやZoomで日々ビデオ会議しているビジネスパーソンにとって非常にありがたい機能で、VAIOオリジナルだ。 日本の個人向けPC市場というのは、世界的に見て非常に特殊だと言われている。「個人ユーザーがプライベートで買う」というよりも、「ビジネスパーソンが個人で(仕事で使う)PCを買う」というパターンが大半を占めているのだ。「ビジネス(法人)向けモデルを作れば、それを個人向けにも販売できる」と考えれば、VAIOの商品戦略は理にかなっている。 そうなると、冒頭に挙げた「他の量販店での取り扱い問題」の答えが見えてくる。 VAIO PCの売り上げのうち、量販店で販売される分は多くの人が考えているよりも少ないと思われる。個人向けの「約15~20%」の台数の多くはVAIOの直販サイトかソニーストア経由で販売されている状況だ。ゆえに、仮にノジマの競合量販店がVAIO製品の取り扱いをやめたとしても、それによる販売台数減は想像以上に軽微なものとなるだろう。 もっとも、現実的に考えれば、量販店は「売れるなら製品を置き、売れないならば置かない」というだけである。店頭で売れるPCを作り続ける限り、VAIOのPCは扱い続けるだろうし、そうでなければ消えていくだけの話だ(ゆえに、VAIOは量販店のニーズにかなうような製品を今後も出し続ける必要はある)。 その上で「VAIOの今」を見ると、ノジマがVAIOを買うことを決めた理由も見えてくる。ノジマの2024年3月期の決算資料を見ると一目瞭然だが、今のノジマグループは個人(B2C)向けビジネスが中心となっている。グループの総売上7613億円のうち、自社で手がける家電量販店事業が2678億円、子会社(ITX、コネクシオなど)を通して手がけるキャリアショップ事業が3465億円と、両事業だけで約80%に達している。 近年、ノジマはISP事業を手がけるニフティを買ったり、キャリアショップ事業を手がけるコネクシオを買収したりと、大規模な買収戦略によって事業の多角化を進めている。しかし、買収した企業はいずれもB2C/B2B2Cがメインである。 B2C事業中心のノジマグループにとって、売上高の80~85%が法人向けというVAIOは補完性の高い事業(会社)ということなる。既に構築されているVAIOの法人向け販売網を活用/拡充することもできるし、自社が持つ店舗を個人/法人双方のサポート拠点として活用することもできるだろう。VAIO側にとっても、ノジマグループのリソースを活用できるのはメリットがあるといえる。 ノジマにしてみれば、法人向けに強みがあり、堅調ながらも成長を遂げている事業(会社)を112億円で入手できる。率直にいえば、同社の経営陣は“安い買い物”だったと考えているのではないだろうか。
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