Netflixシリーズ『地面師たち』成功の要因を読み解く 大根仁の脚色とキャスティングが鍵に
大根仁監督が声とフォルムのバランスを意識した、地面師グループのメンバーたち
無論、その「面白さ」の大きなポイントは、多くの人々を惹きつける「キャスティングの間違いなさ」に拠るところも大きいだろう。原作者・新庄耕が「まさにイメージ通りだった」とコメントしている綾野剛はもちろん、豊川悦司が演じることによって、ある意味原作以上のジェントルな不気味さと変態性を増した「ハリソン山中」という圧倒的な「悪」の存在。そして、彼ら二人を中心とした地面師グループの面々――北村一輝、小池栄子、ピエール瀧という、実に「濃い」役者たちによる見事なアンサンブル。ちなみに、地面師チームのキャスティングについて、大根監督はこんなふうに語っている。 「地面師グループのメンバーについては、声とフォルムのバランスを、実はすごく考えました。みんな特徴のある声なんですけど、ひとつの場にいると和音のように、全部の音を鳴らしても違和感がないんですよね。ビジュアル的にもチームとしてのバランスというか、“見た目のハーモニー”みたいなことを意識しました」 なるほど、目と耳で感じる絶妙なハーモニー。その背後で流れる、石野卓球のスリリングなテクノビート。明らかに全員悪人であるにもかかわらず、最終的には彼らのことを、どこか応援したくなってしまうのは、このキャスティングによるものも、きっと大きかっただろう。 ちなみに、その実際の「撮り方」に関して意識したことについて、大根監督は次のように語っている。 「犯罪ものだからといって、ダークで重い映像ルックではなく、全体的にリッチでラグジュアリーかつPOPなものっていうのは、結構意識しました。特に、こういったジャンルのものにおいては、そこがすごく重要だと思うんです。実際に起きた事件を参考にしつつも、100億円という前代未聞の巨額詐欺を描いたクライムサスペンスなので、美術や小道具はもちろん、ロケ地選びに至るまで、かなりこだわりましたけど……っていうリアリティの追求はいつものことですけど、今回は嘘をつくところは徹底して嘘をつきましたね。特に地面師チームの描写とか。そういうリアリティとファンタジーのバランスにいちばん気を使ったんじゃないかと思います。でも詐欺で使う偽造書類や免許証やパスポートなどは完璧に偽造しましたよ(笑)。今回の美術・小道具チームはその気になれば地面師詐欺ができると思います(笑)。ちなみに、ハリソンが集めているヴィンテージウイスキーも全部本物で、あの棚ひとつで合計4000万円ぐらいするらしいんですけど(笑)」 そうなのだ。この物語が原作小説の時点で、いわゆる「実録もの」ではなかったことについては先に触れたけれど、大根監督は、そこにさらなる「ウソ」を加味することによって――偽装文書などディテールを詰めるところは徹底的に詰めつつも、ある意味本作のケレンの部分である「ウソ」についても徹底的にこだわることによって、その「ウソ」にある種の説得力と納得感を持たせ、この「世界観」の構築に成功しているのだ。ちなみに本来、地面師たちは、万が一の事態に備えて、互いの素性はほとんど知らず、面識がないどころか、一堂に会するなど絶対にないという。ましてや「ハリソン・ルーム」のようなアジトを持つこともない。現実は、あくまでも淡々として、どこまでもドライなのだ。しかし、そこにある種の「ウソ」をまぶしながら(そういう意味では、本作自体が「詐欺」なのだ!)、映像として十分に見応えのあるケレン味を持たせることによって、極上のエンターテインメントに昇華してみせること。それが今回のドラマシリーズ『地面師たち』の最大の見どころであり、いちばんの成功要因だったのかもしれない。いずれにせよ、まだ観てない人は是非!
麦倉正樹