Netflixシリーズ『地面師たち』成功の要因を読み解く 大根仁の脚色とキャスティングが鍵に
Netflixのドラマシリーズ『地面師たち』(全7話)が好評だ。他人の土地の所有者になりすまし、虚偽の売買を持ち掛け、多額の金をだまし取る「不動産詐欺」の集団である「地面師」を題材としながら、「だます側」と「だまされる側」のせめぎ合いを、さらには「追う者」と「追われる者」の攻防を、手に汗握るスリリングさで描き出した本作。その「成功」の要因は、どこにあるのだろうか。筆者が行った大根仁監督のインタビューをはじめとする「公式資料」を参考にしながら、読み解いてみることにしたい。 【写真】綾野剛、ピエール瀧らが演じる“地面師たち”(複数あり) まず言えるのは、本作の原作となった新庄耕の小説が、実際の事件をヒントに生まれた物語であるということだ。2017年に大きく報道された、いわゆる「積水ハウス地面師詐欺事件」である。五反田の土地をめぐって、誰もが知る大企業である積水ハウスが、怪しげな地面師グループに55億円以上もの巨額をだまし取られた事件だ。そこで初めて「地面師」という言葉を知ると同時に、「なりすまし」と「偽装書類」をメインとするその古典的な手口に驚いた人もきっと多かったことだろう。筆者もそのひとりであり、翌年の暮れに出版された、事件の詳細を追った森功のルポルタージュ『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』を、食い入るように読んだものである。 そのさらに翌年である2019年に出版されたのが、先述の小説『地面師たち』だった。この小説が秀逸だったのは、五反田の事件と実際の地面師たちの「手口」を踏襲しつつそれを解説しながらも、その時代設定を東京オリンピックの開催決定で再開発に沸く頃に設定し、なおかつそのターゲットを五反田から高輪ゲートウェイにほど近い泉岳寺の土地に変更した点だろう。その時価総額は、五反田の土地を超える100億円。そして、地面師たちのリーダーであり、ある種のソシオパスでもある「ハリソン山中」という男の圧倒的な造形。そう、この小説は、いわゆる「実録もの」ではなく、完全なフィクションとして、さらには映画『オーシャンズ11』のようなアウトローたちのプロフェッショナルなチーム劇として、実際の事件を見事エンターテインメントとして再構築してみせたのだ。なるほど、この小説は、大根監督がいち早く映像化に向けて動き出したというのも納得の面白さだった。 しかし、今回のドラマ『地面師たち』の成功要因のひとつは、「圧倒的に面白い」その小説を、そのままの形で映像化しなかったことにあるのかもしれない。今回のドラマでは綾野剛が演じた「辻本拓海」――過去のある出来事によって、そのすべてを失いながら、ドラマでは豊川悦司が演じた「ハリソン山中」との出会いをきっかけに、地面師として生きることになった彼の半生と複雑な内面を主軸とした原作小説を、大根監督自らが脚色。ドラマシリーズとして、否応なく続きが楽しみになるような、あっと驚く展開と、映像作品ならでの「見せ場」の数々が、そこに加味されているのだ(ちなみに、池田エライザ演じる「倉持」や、ホストクラブ潜入の一連の展開は、ドラマ版の完全オリジナルである)。そこで意識したのは、「ジャンルをミックスさせることだった」と大根監督は言う。 「これは、以前からぼんやりと狙っていたことなんですけど、いつかドラマでも映画でも、ジャンルを混ぜ合わせたものを作りたいと思っていて。ミクスチャーというか、今回の『地面師たち』も、いわゆる『犯罪もの』ではありますけど、詐欺師グループにだまされる大手デベロッパー側の描写が、実はポイントなんじゃないかと思ったんです。原作小説のヒントになった五反田の事件が発覚したときに、『何で大企業が、そんな犯罪者集団にだまされて何十億も取られちゃったの?』ってことを、みんな思ったじゃないですか。そこをしっかり描けば、大企業で働くサラリーマンの世界も同時に描けるんじゃないかと思って。さらには事件を追う警察側も描ける。犯罪もの・企業もの・警察ものって実はこれまで手を出してこなかったんですけど、この題材だったら自分なりのミックスができるかもしれない、観たことのないドラマができるかもしれない。あと、そもそも『地面師詐欺って、どういう犯罪なの?』という、ちょっと知的好奇心がくすぐられるようなところがあるじゃないですか。そういう意味で、僕が尊敬する伊丹十三監督の『マルサの女』のような『知られざる世界のノウハウもの』でもあると思ったんです」