安齋肇さんと塩谷朋之さんが語り合う、アートとしての看板の魅力や面白さ。
塩谷 前に調べてみたら、顔ハメ看板は世界中にあるみたいです。そもそも19世紀のヨーロッパ発祥だと聞いたこともあります。今は圧倒的に日本が多いみたいですけどね。ちなみにコロナの時は、オランダのワクチン接種会場に置いてあるのをネットで見ました。 安齋 瞬間的に別の世界に入れるところが、世界中で人気の理由なのかな。 塩谷 しかも着替えたりしなくていいので楽ですよね。あとは言葉がいらないというか、穴があいているだけで何をすればいいのかが誰でも分かるっていうところがいいなと思います。
顔ハメ看板にはおもてなしの心が詰まっている。
安齋 塩谷さんはそもそもどうして顔ハメ看板にハマったの? 塩谷 昔から観光地で見つければ写真を撮る程度のことはしていたんです。ある時ビニールハウスの中に捨てられてる顔ハメ看板を見つけて、撮らせてほしいってお店の人にお願いしたら、最初は断られたんですけど、諦めきれずに頼んだら結局出してきてくれて。 安齋 諦めきれずに(笑)。 塩谷 撮り終わって元に戻そうとしたら「そんなに熱心な人もいるならまた外に出しておこう」って言ってくれたんです。宇宙飛行士の看板だったんですが、お店とは全然関係ないし、何の宣伝も書いていなくて。人を喜ばせるためだけにこんなに面倒くさいものを作るのってすごいなと。
安齋 なるほど、本来看板って宣伝が目的だけど、顔ハメってほとんどがおもてなしだもんね。20年近くハマってきた塩谷さんから見て、顔ハメ看板の未来はどうなると思う? 塩谷 今も時々目新しいものが登場するんです。顔の写真を撮ってそれを画像に入れ込むデジタル顔ハメ看板とか。でも、やってみたけれど一つも面白くないんです。日本各地にわざわざ行くとか、中腰になるとか、苦しいからこその魅力があるわけで。 安齋 いわゆる実存主義的な意義があるわけなんですね。 塩谷 どんなに新しい要素が出てきても、この原始的な顔ハメ看板は絶対になくならないと思いますね。 安齋 塩谷さんの哲学を聞いていると、僕も顔ハメ看板から体がはみ出さないように、真摯に向き合っていこうと心を新たにしました。ハメてくれる人がいる限り、僕も顔ハメ看板をどんどん作りたいと思います。もう僕もすっかりハマっちゃいましたよ。