数値化を諦めない!日清食品グループの「戦略的」健康経営 いかに経営に貢献しながら、従業員の健康を守るのか
従業員のウェルビーイングを向上させ、高いパフォーマンスを発揮できる環境をつくることは、人的資本経営を進める上で欠かせないファクターです。そのため近年では健康経営に注力する企業が増えていますが、経営戦略とどのようにひもづけていくのか、実施する施策の効果をどのように測定するのかなどについて、悩んでいる企業は多いようです。日清食品ホールディングスの健康経営施策は、健康投資についての目標や測定指標を詳細に定め、どのように経営課題へ貢献するかを示す「健康経営戦略マップ」を策定。健康にまつわるデータを基に、従業員の健康を守るための予防的アプローチを積極的に展開し、さまざまな効果を上げています。同社で健康経営推進室 室長を務める三浦康久さんに、KPIの狙いや戦略的に健康経営を進めるポイントを聞きました。
トップ自らが「健康面談」で管理職にアプローチ脈々と受け継がれる、健康への強い信念
――日清食品ホールディングスでは2018年8月に「日清食品グループ健康経営宣言」を策定し、さまざまな取り組みを進めています。健康経営に注力する理由をお聞かせください。 2018年に健康経営宣言を策定したことは、確かに大きな節目でした。ただそれ以前から、当社では経営陣が健康への高い意識を持って従業員へのアプローチを進めていました。 日清食品の創業者 、安藤百福は、企業理念の一つとして「美健賢食」 (美しく健康な身体は賢い食生活から)を掲げました。健康に対する信念は日清食品グループのDNAとして脈々と受け継がれています。 三代目である安藤徳隆(日清食品株式会社 代表取締役社長)も健康へのコミットメントを強く持ち、栄養とおいしさの完全なバランスを追求した 「完全メシ」事業を推進。即席めん事業に続くコアビジネスとして成長させるべく、年間数十億円規模の予算を投じています。 他社で健康経営を担当する方と話していると、経営トップが取り組みの意義を理解してくれないという悩みを聞くことも珍しくありませんが、当社では、健康経営に取り組むことは自然な流れでした。 ――経営トップは、どのようにして従業員の健康にアプローチしているのでしょうか。 たとえば、過去には経営トップが管理職に対して「健康面談」を行っていました。 当社の管理職は年俸制を採用しており、年に一度の年俸査定面談では全管理職が1対1でトップと話すのですが、過去には業績以外に、管理職自身の健康に関する項目も査定対象になっていたことがありました。健康な状態であれば年俸にプラス10万円、不健康な状態であればマイナス10万円、といった具合です。 私は43歳のときに受けた査定面談で、体重が85kgで肥満傾向、体年齢は50歳と出てしまい、見事に査定が下がったことがあります。そこで、生活を改善して健康な状態に回復。査定を向上させることができました。 ――管理職の方々に、健康の重要性を強く認識させることができそうですね。非常にユニークなアプローチだと感じます。 ただ面白おかしくやっているわけではなく、背景には安藤宏基(日清食品ホールディングス 代表取締役社長)の苦い記憶があります。 安藤宏基は39年間にわたり社長を務めていますが、就任した頃は世の中全体で健康への意識がさほど高くなく、当社でも経営幹部が仕事を優先させて体調を崩したことがあったそうです。 安藤は「仕事の成果も大切だが、それ以上に事業成長の礎となるのは従業員の健康である」という思いを強くし、30年以上にわたりトップによる健康面談を行ってきました。現在は、健康面談こそ行っていませんが、健康への強い信念は変わりません。