数値化を諦めない!日清食品グループの「戦略的」健康経営 いかに経営に貢献しながら、従業員の健康を守るのか
おしかけオンライン面談でテレワークうつを予防コロナ禍で大きく変わった従業員の健康意識
――健康経営の取り組みを進める上で、課題に感じることはありましたか。 経営陣の理解があって健康経営に取り組み始めましたが、従業員全体に健康経営の意義を理解してもらうことは簡単ではありません。私が健康経営に取り組み始めた2019年当時は、そもそも「健康経営」という言葉自体が、社内であまり認知されていませんでした。「健康経営とは何なのか」「なぜ健康経営に取り組まなければならないのか」という根本的な部分を地道に発信していく必要がありました。 潮目が大きく変わったのは、新型コロナウイルスの感染拡大です。2020年4月に最初の緊急事態宣言が発出された際、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの売り場から即席めんが一斉に消えました。このとき当社では、トップが「私たちは非常時のときにこそ頼りにされる会社であり、このような状況でも生産を続けなければならない。そのためにはまず、従業員が健康でなければならない」と大号令をかけました。社会的責任を果たすために、従業員の健康意識を底上げしなければならないという機運が一気に高まったのです。 トップの意思決定によって、健康投資予算は2019年度の約1億2000万円から、2023年度には2億円近くにまで増額されました。健康経営推進室の人員数も19年度の3名から、23年度は8名と、倍以上に増えています。 ――コロナ禍で従業員の「健康経営」に対する認知度は変わったのでしょうか。 大きく変わったと感じています。 要因の一つは、ワクチンの職域接種を迅速に進めたこと。グループ会社を含む国内約1万2000人の従業員への職域接種を一気に進めたことで、中心的な役割を果たした健康経営推進室は従業員から高く認知され、「健康経営」という言葉も普及されるようになりました。 もう一つの要因は、いわゆる「テレワークうつ」を予防するための対策を進めたことです。当社では2020年2月末から在宅勤務への切り替えを進め、働き方がガラリと変わりました。切り替えから1~2ヵ月後に行った従業員向けアンケートでは、在宅での働き方には90%近くが満足しているけれど、ストレス解消度については25%が不満を感じている、という結果が出ていました。コミュニケーションが質・量ともに低下したこと、オン・オフの切り替えが難しくなったこと、自宅に働きやすい環境が整っていなかったことなどが不満の要因だったようです。 このとき私たちは、無自覚のストレスに着目しました。本人はポジティブなつもりでも、慣れない在宅勤務によって、気づかないうちにストレスがたまっているかもしれません。他社でも、在宅勤務中心のところはテレワークうつが急増していると聞きました。 そこで、予防のために 自律神経ストレス計を導入し、自律神経機能偏差値とバランスを日々計測。従業員ごとにテレワークうつのおそれが高まっていないかを可視化しました。 ――アンケートの結果が良くない従業員に対してはどのように対応したのですか。 自律神経の整え方に関する書籍を配布したり、睡眠の質を改善するプログラムを紹介したりしたほか、「おしかけオンライン面談」も実施しました。 産業医や保健師が待ちの姿勢でいるのではなく、テレワークうつのリスクが高い 従業員へ積極的にアプローチして、おせっかいを焼いたわけです。従業員側には測定前に「スコアが悪ければ産業医や保健師がおしかけて面談する」ことに同意してもらっていました。 こうした取り組みを進める中で、健康経営を進める意義が広く理解されるようになったと考えています。