ハリス氏の「女性」封印、背景に日本より進んだ土壌 三浦まり氏
11月5日の米大統領選で民主党のハリス副大統領が共和党のトランプ前大統領に勝利した場合、米国史上初の女性大統領が誕生する。超大国のリーダーに女性が就くことは、女性の権利向上や政治参加にどのような意義があり、日本にはどんな影響を与えるのか。政治とジェンダーに詳しい専門家に聞いた。【聞き手・国本愛】 ◇三浦まり・上智大教授 ハリス氏は今回、2016年の米大統領選の民主党候補だったヒラリー・クリントン氏と異なり、「ガラスの天井」を打ち破る女性としての立場を強調せず、性別を表に出さない戦略をとった。史上初の女性大統領になる可能性についてはほとんど自ら言及しなかったように思う。 これは、人工妊娠中絶の権利問題を巡り、ハリス氏が既に女性層から圧倒的な支持を集めていることや、ヒラリー氏が女性の権利向上に取り組んできたのに対し、ハリス氏は元検事のキャリアを持つというバックグラウンドの違いも影響しているとみられる。 女性であることを前面に出さない女性が大統領候補になったことは、米国社会が既に女性リーダーを当然のものと捉えるように変わってきた証しともいえる。8年前と比べ、米国社会では企業や政治、教育現場など、あらゆる分野で女性が意思決定の場に参加することが当たり前になりつつある。ヒラリー氏をはじめとする女性たちが道を切り開いたことが、今回のハリス氏の選挙手法につながったと言える。 むしろトランプ氏の方が、ハリス氏の性別を攻撃して男性同士の結束を演出するなど、自らのマスキュリニティー(男性性)を強調していた。20年の前回大統領選で彼を支えた娘が今回は選挙運動の場にほぼ不在だったため、トランプ氏の周辺から女性の存在が消え、よりマッチョなイメージが強まった。 男らしさを強調する戦略は、一部の黒人男性層にも響いたが、一方で共和党内からもミソジニー(女性嫌悪)的な手法に批判が上がっていた。トランプ氏が勝利した場合、女性だけでなく、彼が押し出す男性像に当てはまらない男性からも反発が生まれるはずだ。 ハリス氏が勝てば、有色人種の女性でも大統領になれるという強いメッセージが発信され、女性の政治参画の裾野をさらに広げる効果があるはずだ。米国社会全体で、女性がリーダーになる準備ができていたことも証明される。 一方、日本社会はというと、まだあらゆる層で女性リーダーが不足し、女性首相を送り出すような土壌はできていない。たとえ今、女性首相が誕生したとしても、男性政治の構造は変わらない可能性が高い。 日本が学ぶべきなのは、ハリス氏が大統領候補になった背景に、女性の地位向上のために米国社会が長年積み重ねてきた努力があるということだ。大学教育での平等化や賃金格差是正、ハラスメント対策など、米国は日本以上に女性施策が進んでいる。そうした下支えがない日本は、女性がさまざまな意思決定の場にいられるよう、腰を据えた取り組みが必要だ。