「裏切られた」不登校だった少年が抱えていた孤独 学校にあらがい続けた13歳の死、教育委員会の対応は「機能不全」に
「翔の悩みや、学校の問題をなかったことのように装うのが許せない」。千栄子さんは、泉南市が常設する「子どもの権利条例委員会」に助けを求めた。この委員会は有識者や市民代表で構成される独立性の高い組織だ。 条例委員会は事務局にヒアリングを重ね「基本調査報告」などの提出を求めたが、事務局は拒否。冨森ゆみ子教育長に対する出席要請も「公務」を理由に応じなかった。条例委員会が一連の経緯をまとめた報告書を作成すると、今度は顧問弁護士のコメントを盾に「内容の一部に守秘義務違反が疑われる」と主張し、市長への提出を妨げようとした。 ▽教育委員会は「機能不全」 事態が動いたのは昨年7月だ。事務局の態度に業を煮やした条例委員会が記者会見を開き、会長を務める千里金蘭大の吉永省三名誉教授は次のような文言でその実態を「告発」した。 「子どもの自死から3カ月以上経過した現在も、事務局は教育委員会に報告していない。基本調査報告は保護者に一切明らかにされず、市内の校長会にも報告されていない。教育委員会制度が機能不全に陥っている」
翌日、泉南市議会は全議員が出席する「全員協議会」を開き、翔さんの自死事案を取り扱った。議員らは「子どもの命に向き合う気があるのか」と事務局を厳しく非難した。 山本優真市長は「今後は教育委員会に任せず、市長主導で動く」と宣言し、条例委員会の報告書を受け取った上で、新たな第三者委員会を立ち上げて調査することを決めた。 第三者委員会の調査は今年1月に始まったが、審議は全て非公開で、進捗状況は遺族にも明かされていない。学校で一体何があったのか。翔さんの死から1年5カ月たった今も、千栄子さんはその輪郭すらつかめずにいる。 ▽学校に行かないのは「裏切られたから」 翔さんは一体どんな子どもだったのか。残された資料や関係者の証言からたどってみたい。遺族の請求を受けて今年7月に開示された学校作成の「指導記録」には、教師たちとのやりとりが一部残されている。この中で目を引くのは、翔さんが教師らに何度も投げかける「裏切り」という言葉だ。たとえば6年生だった2020月6月23日の記録には、こういう記載がある。教師らが自宅玄関前で翔さんに登校を求める場面だ。