海底からナバテア王国時代の神殿が姿を現す。中東以外で初めて発見された同王国の建造物
学術誌『Antiquity』に掲載された研究によると、イタリアの港湾都市ポッツオーリの沖でナバテア王国時代に建設された神殿が発見されたという。ナバテア王国時代に作られた建築物のほとんどは中東に存在することから、この発見は珍しいとされている。 当時ポッツオーリは、ローマ共和国時代には地中海を航行する貿易船の拠点だった。そこにはアウグストゥス帝治世下にエジプトや北アフリカから輸出された穀物を貯蔵する倉庫が数多く建てられていたが、火山の噴火により港は海底へと沈んでしまった。 こうしたなか、ローマ帝国がナバテア王国を征服し併合した直後に建設され、多くの帝国民が移住するきっかけとなった2000年前の神殿が、考古学者たちによって海中で発見されたのだ。今回の調査は、カンパーニャ大学とイタリア文化省が共同で実施している。 ナバテア人の神ドゥシャラに捧げられたこの神殿が、中東以外で発見されたのは初めてのことだ。こうした神殿にはアラム文字で書かれた碑文が刻まれているが、このほど発見された遺跡には、ラテン文字で書かれた碑文がある。また、神殿の建築様式にもローマの影響が反映されており、内部には、神聖な石で装飾された大理石の祭壇を備えた2つの大きな部屋が設けられていた。 アウグストゥスとトラヤヌスの治世下においてナバテア人は、ヨルダンやガザからプテオリを経由して運ばれてきた贅沢品の貿易による莫大な富のおかげで自由な暮らしを送っていた。しかし、106年にナバテア王国がトラヤヌスの軍団に敗北したのちに交易網がローマ人によって掌握され、ナバテア人は富の源を失った。 そして、2世紀に町が水没。それ以前に地元住民が意図的に神殿を埋めたのかどうかは、まだ明らかになっていない。
ARTnews JAPAN