【遺産総額9,500万円】70代父の死…40代長男「相続税額ゼロ」の可能性に舞い上がるも、厳しい実情に呆然。「気づかなかった…」大後悔のワケ
「小規模宅地等の特例」と「建物の登記」の関係性
小規模宅地等の特例においては、区分所有ではない二世帯住宅と、区分所有されている二世帯住宅とでは、適用上の扱いに違いがあります。 たとえば、1階に親、2階に子ども夫婦が居住している二世帯住宅の場合、内階段がなく1階と2階が内部で行き来できない完全分離型の二世帯住宅の場合においても、親と子どもは同居しているとみなされ、小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)の適用を受けることが可能です。 しかし、1階と2階で区分登記がされている場合には、同居とはみなされません。
「父の生前に、区分登記を解消しておけばよかったのに」
小規模宅地の適用を受けるには、 相続開始前までに 区分登記を解消し、共有所有に登記を変更する必要があります。 建物が区分登記されている場合は、相続前に区分登記を解消し、共有もしくは一体の登記に変更すれば、二世帯住宅での同居という形を変えることなく、小規模宅地等の特例を土地全体に適用することが可能です。 以前筆者が受けた相談でも、今回の鈴木さんとまったく同じ状況の方がいらっしゃいました。2階建ての2階を相談者の方、1階を父親と、2分の1ずつ区分登記していたため、そのままでは父親の相続が発生したときに、小規模宅地等の特例が自宅土地の半分しか適用できないことから、相談者が父親から建物を買い取るかたちで区分登記を解消したのです。 その後、その方の父親が亡くなったときには自宅土地の全体に小規模宅地等の特例を適用することができたことから、相続税の申告は必要でしたが、納税は不要になりました。 今回の鈴木さんも、相続前に相談に来られていれば、相続税は大きく減額することができのですが、残念な結果となりました。 自宅をどのように相続するかは、これから家族で相談のうえ、決定することになりますが、まずは母親が土地を相続し、建物の鈴木さんが相続して区分登記を解消しておけば、母親の相続時には、自宅の土地全体に小規模宅地等の特例を適用することができます。 以上のことから、筆者と税理士は、まず配偶者の税額軽減を適用して納税を減らし、二次相続までに建物の区分登記を解消しておくことをアドバイスしました。 「残念です。父の生前に、区分登記を解消しておけばよかったです…。でも、よくわかりました。母親と姉にアドバイスを共有して、今後に生かしていきたいと思います」 鈴木さんはそう言って事務所を後にされました。 二世帯住宅を建てている方は、自宅の登記についてよく注意を払ってください。もし区分登記であれば、相続までに解消しておき、節税につなげていきましょう。 ※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。 曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士 ◆相続対策専門士とは?◆ 公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。 「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
曽根 惠子