伊豆の人気温泉宿が「数年ごとに最大8億円規模の改築」を繰り返す納得の理由
”顧客カルテ”によるサービスの質向上
新規のお客様と違い、リピーターのお客様には前回ご利用の際に知り得た顧客情報がありますから、それを活かさない手はありません。顧客情報というと、年代や家族構成、趣味、アレルギー、喫煙などを項目として設定している旅館やホテルが多いですが、私はそうした項目では記入できない情報こそ重要だと考えています。 浜の湯の顧客カルテは担当する仲居による自由記述です。あるカルテには料理を召し上がるペース、奥様は左利きだった、どんな会話を交わしたかなどが記入されていました。そして、お客様が次に来てくださった時に情報を活かして、お箸を左利き用にセットしたり、食事を提供するペースを参考にしたりするなどして、サービスの質を高めることができます。どんな情報を記録するかに仲居の個性が表れ、その情報がさらに個性を活かした接客へとつながっていくのです。 顧客カルテについては、導入した時からそのデータ管理も行なっています。以前、子どもの頃にご両親と浜の湯に泊まられたというお客様が、ご自分の奥様やお子様と宿泊してくださいました。そこで、予約された方のお名前などをお聞きして過去の情報を引っ張り出すと、当時、お父様と交わした会話などが残っており、それをお伝えしたところ大変喜んでいただきました。 このようにリピーターがいるからこそ顧客カルテが活用できますし、顧客カルテの情報を活用したサービスによってお客様に小さな喜びや驚きを与えることができます。それが大きな感動となり、リピートにつながっていく。やはり継続していくということが大事なのだと感じています。
”おもてなしの神髄”は変わらない感動と新たな感動の2つの感動にある
私は旅館というのは単なる宿泊施設の形態ではなく、長く親しまれてきた日本独自の伝統文化の一部だと考えています。お客様が到着したお出迎えから、出発のお見送りまでを同じ仲居が担当し、夕食、朝食ともに部屋で提供するのも、旅館ならではの接客手法です。実際、外国人観光客の方も「日本文化を体感したくて訪れている」と口を揃えておっしゃいます。 そして、この旅館特有のおもてなしにこだわり、お客様一人ひとりに合わせたきめ細やかな対応によって、いつ訪れてもすばらしい接客を受けられるという安心感から生まれる「変わらない感動」を提供し続けたいと考えています。 一方で施設のリニューアルやメニューの変更などをこまめに続けているのは、訪れるたびに今までとは違う新鮮さを感じていただくことで、「新たな感動」を提供したいからです。 「変わらない感動」「新たな感動」の融合こそ浜の湯のおもてなしの神髄であり、リピーターのお客様の「また来たい」という思いを生んでいるのです。
鈴木良成(株式会社ホテルはまのゆ代表取締役)