伊豆の人気温泉宿が「数年ごとに最大8億円規模の改築」を繰り返す納得の理由
料理の質向上のために敢えてしなかったこと
浜の湯では以前から行ってきた部屋出しに加え、夕食の部屋出しの際、お客様のお食事のペースに合わせて、温かいものは温かいまま提供する一品出しに変えたのです。そのためには仲居の人数を増やすと同時に接客スキルを上げる必要があり、決して短期間ではできないことでしたが、段階的に行っていきました。 また、浜の湯名物・金目鯛姿煮と舟盛り以外の献立は、季節に合わせて2カ月ごとに変えています。リピーターの中には毎月宿泊されるお客様もいらっしゃるので、その場合は異なる料理が楽しめるように特別にメニューを変更します。さらに毎年、新しい料理プランを出すなど、リピーターが料理の面でも飽きることなく楽しんでいただけるように工夫を続けています。
距離の近い接客の生み出し方
施設の造りや客室数はもちろんですが、旅館とホテルとの一番大きな違いはお客様とスタッフとの「心の距離感」です。 浜の湯では仲居による完全担当制を採用しており、チェックイン時のお出迎えからお部屋へのご案内、夕食、朝食の部屋出し、チェックアウト時のお見送りまで同じ仲居が担当します。特に夕食は10品程度をお出ししますが、1品ずつタイミングを見ながら2時間ほどかけて提供するため、多くの接点が生まれます。この接点の一つひとつがお客様を知る貴重な機会になるのです。 そこで得た情報を元に、このお客様はどんなサービスを求めているか、どのようなお声がけをするべきかを仲居一人ひとりの個性や感性を活かして実行していきます。こうした接客にマニュアルは通用しないので、私は「お客様のためにひらめいたことは何でも実行するように」と伝えています。仲居は「さらに世話を焼きたい、喜んでいただきたい」という思いを表現することでお客様との距離を縮めていくのです。 一方でこうした旅館の接客はおせっかいにもなりかねませんが、多少おせっかいになったとしても、そのほうが良いというのが私の考えです。人というのは放っておかれるよりも構ってほしいものですし、やはり旅館だからこそお客様に寄り添えると思うからです。そして、お客様にはホテルとの違いに価値を感じていただきたいという思いもあります。そういう意味で、浜の湯のライバルはホテルだと思っています。お客様と心でつながることができる旅館本来の接客もリピーターを獲得する大きな原動力です。