「高齢者が積極的に運転免許を返納する必要はない」…意外と知られていない"高齢のドライバー"をめぐる現実
■クルマ社会は飲みに行かず、電車社会はよく飲みに行く こうした日常使っている交通機関の違いは生活スタイルに大きな違いをもたらす。 クルマで移動する生活では、商店街よりもロードサイドの量販店や、イオンなどの大型のショッピングモールに行くことが多いが、電車中心の生活では駅近くの商店街やターミナル駅周辺の繁華街に行くことが多くなる。 そして、最も違うのが飲みに行くかどうかの違いだ。 図表1は「いい部屋ネット 街の住みここちランキング」の個票データを使った市区町村別の「日常の交通手段にクルマを使っている率」と「よく飲みに行く率」の散布図で、東京23区とそれ以外の地域で全く違う傾向を示していることが分かる。 首都圏、特に東京23区では電車通勤が多く、飲みに行くからといって通勤手段を変える必要もなければ、家族との調整もあまり必要にはならない。そのため、予定していなくても、「ちょっと一杯やって帰ろうか」ということがよくある。 一方、地方でクルマ通勤の場合には、そういうわけにはいかない。クルマ通勤で飲みに行く場合は、事前に日程を決め、家族に送迎を頼んだり、代行の予約なども考えて、計画する必要がある。予定していない「ちょっと一杯やって帰ろうか」ということはほとんどない。 大都市中心部と郊外、地方では暮らし方自体が全く違うのだ。 ※詳しくは宗健(2022)「テクノロジーを地域の暮らしに溶け込ませるために」人工知能学会誌,Vol.37 No.4(2022年7月1日)参照 ■地方の駅周辺と中心市街地の衰退は止められない 都会で生まれ育った人には想像できないだろうが、地方ではどこにでもクルマで行くから駅にはほとんど行かないし、中心市街地にもあまり行かない。 そのため、駅からとても歩けないような場所に、家を建てたり、アパートがあったりするのは当たり前でなんら不自然なことではない。 たまに、地方の寂れた商店街を再生しよう、とか田んぼの真ん中にアパートを建てたりするのをけしからん、といった意見を聞くこともあるが、それは都会と地方のライフスタイルの違いを理解していないだけのことだ。 だから、地方では駅周辺と中心市街地が寂れるのを止めることは難しいのは自明だ。 そして、クルマでいつでも自由にどこにでも行ける(ただしアルコールは飲めない)、という暮らしは、慣れてしまえば、案外快適なのだ。 ---------- 宗 健(そう・たけし) 麗澤大学工学部教授 博士(社会工学・筑波大学)・ITストラテジスト。1965年北九州市生まれ。九州工業大学機械工学科卒業後、リクルート入社。通信事業のエンジニア・マネジャ、ISIZE住宅情報・FoRent.jp編集長等を経て、リクルートフォレントインシュアを設立し代表取締役社長に就任。リクルート住まい研究所長、大東建託賃貸未来研究所長・AI-DXラボ所長を経て、23年4月より麗澤大学教授、AI・ビジネス研究センター長。専門分野は都市計画・組織マネジメント・システム開発。 ----------
麗澤大学工学部教授 宗 健