2024年Jリーグの話題の中心 FC町田ゼルビアのJ1初挑戦は予想以上の快進撃と風当たりの強さ
【高まった批判】 シーズン開幕前、黒田監督は「5位以上、勝ち点70」というJ1初参戦としてはかなりハードルの高い目標を掲げた。自らにも大きくプレッシャーをかけ、妥協なくシーズンを戦うという覚悟を持った目標設定だった。 それも蓋を開けてみれば、前述したように町田は怒涛の勢いで勝ち点を積み重ねていく。第8節では王者ヴィッセル神戸に1-2と惜敗するも、FW武藤嘉紀は「やることが明確で、全員がハードワークできるいいチーム。すばらしいサッカーだと思います」と称賛した。そのほかの対戦相手も町田のサッカーを「シンプルに強い」と評する声は多かった。 その一方で雲行きが変わったのは第15節東京ヴェルディ戦あたりだ。FW藤尾翔太がPK時にボールに水をかけた、いわゆる"水かけ問題"が大きく注目され、町田への批判が高まった。 そして昌子も「あれで流れが完全に変わった」と振り返るのが、6月12日に行なわれた天皇杯2回戦の筑波大学戦。町田はPK戦によって敗れ、ふたりの骨折を含む4人が負傷離脱となった。試合後の会見で、黒田監督はケガ人のあまりの事態に黙っていられなかった。審判や筑波大への抗議の言葉を並べると、SNSやネットニュースで瞬く間に物議を呼び、町田への批判は一気に燃え盛った。 また、天皇杯直後の第18節横浜F・マリノス戦の記者会見で、黒田監督の発言が「ゼルビアは悪ではない。われわれが正義」という切り取られ方をされて再び炎上。この一件が批判ムードを決定づけ、度を超えた誹謗中傷の数は急増した。SNSでは町田の試合映像を切り取った違法な投稿が溢れ、「町田の叩けそうなものはなんでも叩け」という風潮が蔓延していた。
【優勝争いからの後退で誹謗中傷は激減】 黒田監督は会見や囲み取材でメディアに見出しを作りやすい言葉を残し、ざっくばらんにいろんな話をしてくれた。それは黒田監督の魅力でもある。ただ時折、横浜FM戦のように文字にするにはやや強いワードを用いたことも事実ではある。 自身ではメディアとの関わりを「メディアの前で話す以上、100%理解してもらえるように落とし込めなければ、誤解もされるし、思っていることとは真逆の状況に発展してしまうことも多々あった。そこはプロの世界に入ってすごく学習したところ」と振り返っている。 ネット上では炎上を狙った記事が溢れ、狙った通りに炎上し、簡単にPVを稼ぐメディアが後を絶たなかった。いつしか黒田監督のそうした発言を誘う質問をする記者も現れるようになったが、それは必然だった。 クラブ内ではメディア対応について議論を重ねて「試合後の記者会見では最低限のことしか話さない」と監督が方針を出したこともあった。確かに自身からそうした発言をすることはなくなったが、記者から質問をされれば逃げなかった。 側から見ても「もっとやんわりとかわしてもいいのでは」と思うことは少なくなかったが、聞かれれば真正面から正直に答えるのが黒田剛という人間の性分だった。あれだけの事態に発展したことを考えると、練習場である三輪緑山ベースでの監督取材の場が、時間の縮小はされたもののよくクローズにならなかったと思う。 現場で取材をしてきた筆者としては「悪意ある切り取られ方をされた」と感じることが多く、それがひとり歩きし、収拾のつかないところまで発展したように思う。それを招いてしまったのは、2年目というプロの世界での経験不足と言えるのかもしれない。 ただ、そうしたネット記事は町田が9月から10月にかけて負けが込み、優勝争いから一歩後退すると沈静化し、誹謗中傷がなくなりはしないものの激減したという。つまるところ批判や誹謗中傷の多くが、町田憎しというより、ただのやっかみだったのだろう。