異常気象で高騰する果物価格、こたつでみかんも無理?スーパーの売り場に起きた異変
豊作の方が珍しく輸入も高い
今年の秋冬、順調だったのは増産し過ぎの感があるシャインマスカットと、豊作だったラ・フランスくらい。 シャインマスカットは貯蔵がきくので、冬場も安定して供給できるようになっている。高騰するイチゴの代わりに、シャインマスカットをあしらったクリスマスケーキも見られた。輸入果実も、不作や円高でかつてのような値ごろ感が失われつつある。 農林水産省は、農業版の消費者物価指数といえる「農業物価指数」を公表している。2020年を基準として、現在の農産物や資材の価格がいくらになるのか算出したものだ。 それによると、24年10月に農産物価格指数は126.5だった。9月に比べると6.8%、前年の10月に比べると5.3%上昇している(図1)。 前年同期比を押し上げた最たる理由は、コメの高騰だ。けれども秋以降の指数の上昇でいうと、9月に比べて27.5%上がった果実も影響した。 果実の指数の推移を見ると、2023年も秋以降に値上がりする、似たような傾向にあったと分かる(図2)。 そもそも果実は、生産者の高齢化という時限爆弾を抱えている。作付面積は、高齢農家の離農で減り続けている。
農家の高齢化という時限爆弾
農水省が11月下旬に公表した「令和6年産びわ、おうとう、うめの結果樹面積、収穫量および出荷量」によると、面積は前年に比べて、びわ4%、おうとう2%、うめ2%の減(図3)。 中でもびわは、農家の高齢化が進み、年数%ずつ面積を減らしてきた。作業が短期間に集中するため、高齢者が継続するのは難しい。近い将来、安定した供給が難しくなるかもしれない。 びわは食べないから構わないという読者もいるかもしれない。しかし、高齢化と供給不足は、みかんのようなメジャーな果実でも現実になっている。
減少する樹園地と加速する温暖化で、果樹はどうなる?
果樹はそもそも、中山間の傾斜地といった条件不利地での栽培が多い。5年に1度行われる農業版の国勢調査といえる「農林業センサス」。直近の2020年版で、樹園地が著しく減った。農地の減少率が全国平均で6.3%なのに対し、樹園地は15.6%。田の8.3%、畑の2.1%を大きく引き離した。 果樹の盛んな地域では、農地の集積が進みにくい。機械化でほかの品目より遅れ、人手がかかり労働集約的であるだけに、規模を広げるにも限界がある。果実を間引きする「摘果」や、収穫の時期に多くの人手を要する。それだけに、規模を拡大しても、必ずしも生産性でより規模の小さい農家に対して優位に立つことにはならない。 結果として、高齢な農家が離農すると、樹園地がそのまま廃園とされがちだ。国産の果実の供給量は減っていて、その価格は上がる傾向にある。このままでは、値上がりによって需要が減退してしまう可能性もある。 果樹が一度植えたら長年にわたって収穫する「永年作物」であることも、集積の足を引っ張る。 木がすでに植わっている農地を引き継げるから、初期投資が抑えられて利益を出しやすいとはならない。手放される樹園地は、往々にして条件が悪いからだ。老いた木で収量が低かったり、古い品種で人気がなかったり、木を植える間隔や樹高、枝の張り方といった仕立て方が作業の負担を減らすには不向きだったりしがちである。 温暖化は離農に拍車をかけうる。高温に強い品種が開発されているものの、問題がある。木を植え直してから数年間は実を結ばず、収入を得られないのだ。高齢な農家ほど、品種の切り替えはせず、離農後はそのまま廃園になりがちという負のスパイラルがある。 安くておいしい果物を楽しめる時代は終わりつつある。
執筆:ジャーナリスト 山口 亮子