「更年期だと思ったら心臓病だった」死を目の当たりにして気づいた、人生の優先順位
利尿剤の効果で体重が10キロ減
実は村井さんは、先天性の心臓病で7歳のときに開胸手術を受けている。 「先生いわく、当時の手術で血流が変わって心臓の弁に負担がかかったのではないかということでした。双子を妊娠したことも心臓に負担をかけた原因のように思います」 子どものころの経験で心臓病という病名には免疫があったものの、「先生に『心臓が止まりかけています』と言われたときはさすがにショックで、自分は重病人なのだと思いました。でも、体調不良の原因がわかったことでホッとして、『じゃあ、あとは治すだけ』と気持ちが切り替わりました」 まずは心不全の治療のために入院。投薬が始まると、利尿剤の効果でみるみるむくみが解消したという。 「すごく効くと言われた利尿剤を飲んだところ、一日で体重が5キロ減りました。鏡を見ると元の自分の顔に戻っていましたし、指も細くなって元の太さになりました。 顔がむくむのも、指が太くなって指輪が入らなくなったのも、更年期のせいだとばかり思っていたのが、原因は心臓だったんです。 外見も体調も少しずつ変化していましたし、とにかく毎日が忙しくて、自分の見た目が変わっていることを無意識のうちにスルーしていたみたいです」 3週間の入院中に体重は約10キロ落ちた。緊急入院した日に着ていたコートは、退院時には大きくて重く、靴はサイズが合わずに脱げそうになり、背負ったリュックサックの重みで身体が振り回された。 「入院して治療を受けたので、ある程度は今までどおりの生活に戻れるのではないかと思っていました。でも、自宅に帰ると玄関のドアが重く感じられ、階段を2段上るたびに立ち止まって呼吸をするような状態でした。自分が以前とは別の人間になってしまっていることが恐ろしかったです」
死を目の当たりにして死生観が激変
村井さんは退院から2週間後に県内の別の病院に転院し、心臓弁膜症において日本一の名医による手術を受けた。 「開胸手術だったので、術後はそれなりに痛みもありました。それなのに翌日から歩くようにと指導され、スパルタなリハビリはキツかったですね」 厳しい入院期間を経て退院するころ、村井さんは今度は“怒り”に燃えていたという。 「入院中にそれまでの人生を振り返り、自分のことは後回しで家族優先の生活を送り、無理を重ねてきたことに改めて気づいたんです。『なぜ、ここまで無理をさせたのか』という周囲への怒りがすさまじかったですね。 夫と息子たちにもその怒りは伝わったようで、食事の後片づけをしたり、買い物の際に重い荷物を持ってくれたりと、私の負担を減らすような行動をとってくれるようになりました」 身体のつらさは時間とともに和らいでいったものの、しばらくの間は精神的なダメージが続いたという。 「手術後の1年くらいは、自分が死にかけたという意識がやけに強くなり、怖くなることがありました。実際、心臓病を患った人の5年生存率は50%くらいですから。そうした事実を知れば知るほど恐怖を感じました」 村井さんは以前から不眠症で診療を受けていたメンタルクリニックを利用したり、SNSを通じて同じ病気の人たちとつながったりすることで精神的に安定していった。その一方で、死生観には大きな変化が見られたという。 「術後1年半を過ぎたころ、兄が亡くなったんです。兄は狭心症を患っており、糖尿病や高血圧の持病もありましたが、あまりにも突然すぎる死でした。兄の無念さを思うと、私はもうちょっと生きなければと。 もうちょっと本や原稿を書きたいし、きれいな景色も見たいし、犬も飼いたい。家族のために頑張ったとしても、死んでしまったら元も子もないですから。兄の死に直面したことで、人生に活が入ったように思います」