<この人・パリパラリンピックに出場する石浦智美氏/伊藤忠丸紅鉄鋼>仕事を刺激に、世界の舞台へ
今夏のパリパラリンピックに水泳3種目とリレーで出場する。「初出場だった東京大会は独特の雰囲気に飲まれてしまいました。一度経験しましたし海外での試合にも慣れてはいますが、パリは有観客になりますし、しっかり準備していきます」と意気込みを語る。 水泳を始めたのは2歳から。先天性緑内障の視覚障がいを持つ中で「安全にできるスポーツで道具も不要。やればやるほど結果が出る」と打ち込んできた。 普段は週6日のスイムと週3日のウエートトレーニングをこなしながら、出社時は人事総務部給与・厚生チームで社員の勤務状況などをチェックする。自ずと海外出張の多さに触れ「鉄鋼商社でグローバルに活躍している社員と一緒に働けるのは刺激になりますし、もっと私も頑張ろうと感じます」。世界の舞台で渡り合ってきた選手として、MISIでの仕事は競技にも好影響をもたらしている。 前の職場はフルタイム勤務で、帰宅ラッシュ時に利用できる施設まで2時間かけて移動。練習時間も限られた。リオ大会の選考会で派遣タイムに到達せず悩んでいた時、当時のコーチに背中を押され、2017年に伊藤忠丸紅鉄鋼へアスリート社員として入社した。 以降は着実にタイムを上げ、今年3月の選考会では日本新記録でパリへの切符を手にした。今月、シンガポールで開かれた国際大会では50メートル自由形で29・70秒のタイムを出し、今期の世界ランキング1位に。100メートル背泳ぎでも1分17・56秒で1位に浮上した。 決して体調は万全ではない。3月の選考会前には光がほぼ見えなくなり眠れなくなった。シンガポールでも風邪に見舞われたが、その中でもベストを更新した。 障がいについては「まず知ってもらうこと。そうすれば皆の世界が変わるのではと思っています」と話す。「日本では知らないので何もできないという価値観になりがち。視覚障がいがあっても読み上げるソフトでエクセルやワードが使えると知るだけで業務の新しい切り口ができます」。個の力を突き詰めながら、コミュニケーションをとり支え合う大切さを競技と仕事を通じて伝えていく。(黒澤 広之) 略歴 2010年恵泉女学園大学人文学部英語コミュニケーション学科卒。化学メーカー勤務を経て17年伊藤忠丸紅鉄鋼入社。20年東京パラリンピック出場。新潟県上越市出身、36歳。