英のEU離脱、米のトランプ現象……「内向き志向」は世界の潮流になる?
英国民によるEU離脱の選択は、さまざまな課題を投げかけてきます。私たちは歴史の転換点にいるのかもしれません。戦後に築かれてきた秩序や価値観はどうなろうとしているのか。国際政治学者の六辻彰二氏に寄稿してもらいました。 【写真】英国のEU離脱で「英中接近」はどこまで加速する?
英国の「利益」と「独立」を強調した離脱派
6月23日、英国でEUからの離脱をめぐる国民投票が行われました。国内を二分する激論の結果、離脱派が勝利。世界に衝撃が走りました。今回の国民投票は、世界全体でのナショナリズムの高まりの結果であると同時に、それを加熱させ、さらに交錯させる転機とみられます。 今回の国民投票を振り返ると、離脱派の主張は、大きく以下の二点にありました。 ・EUの一員であることの負担が大きい(債務危機に陥ったギリシャの救済や、移民・難民の受け入れなど)一方、英国への恩恵は少ない。 ・環境規制から労働基準まで、生活のすみずみにEUの規制が行きわたっており、英国の自主性が損なわれている。 これらは総じて「英国の利益」と「英国の独立」を強調する立場と重なります。 これに対して残留派は、EU統合の理念に加えて、「5億人の市場を抱えるEUの一国」であることによる経済的利益などをあげて反論。しかし、少なくとも選挙結果は、EUの一員であることのメリットよりデメリットを感じる人が多いことを示すものになりました。
「自由貿易は互いの利益になる」米英が推進
今回の選挙結果を考えるとき、キーになるのは「自国の利益をいかに守るか」という点です。 これに関して、第二次世界大戦後の世界では、「海外との付き合いを通じて自国の利益を確保する」という考え方が基本になったといえます。1944年に連合国が集まったブレトン・ウッズ会議での決定に基づき、米英主導で自由貿易体制が打ち立てられたことは、その先駆けでした。 米英が自由貿易を推進した背景には、「自由貿易がお互いの利益になる」という考え方とともに、1929年の世界恐慌の後、「持てる国」(広い国土をもつ米国や、数多くの植民地をもっていた英仏)が自国の生き残りのために保護貿易(※)に向かい、それが結果的に「持たざる国」(日独など)を経済的に追い詰め、これらの軍事活動を招いたことの教訓がありました。つまり、「自由貿易は平和に資する」と考えられたのです。 実際、その後の自由貿易の発達で、どの国も外国抜きで自国が成り立たない状況(国際政治学でいう相互依存関係)が生まれ、これは西側先進国同士での戦争を抑制する一因となりました。数百年間にわたって戦争を繰り返した仏独が、大戦後に重要なパートナーになったことは、その象徴です。仏独を中心とするヨーロッパ諸国は、戦後復興のなかで段階的に経済協力を深め、これがEU統合の土台となったのです。 (※)英仏は、自国や植民地以外の国に対して高い関税をかけ、利益の囲い込みを図った「ブロック経済」を敷いた