英のEU離脱、米のトランプ現象……「内向き志向」は世界の潮流になる?
米国ではトランプ現象……戦後秩序の方向転換
不安定な状況のなかで「海外との付き合いを制限することで自国の利益を確保する」動きは、少なくとも先進国では、「海外との付き合い」を前提とする既存のシステムの下での利益が期待しにくい個人ほど、広がりやすいとみられます。 今回の国民投票の結果を振り返ると、ロンドンを除くイングランドのほぼ全域で、離脱派が勝利したことは示唆的です。とりわけ移民の多いマンチェスターやバーミンガムでは、中間層の間でも離脱派が多数を占めたとみられます。 また、この傾向は、米国におけるトランプ現象にもほぼ共通するといえます。米国でもやはり、経済が回復しつつあるとはいえ、対テロ戦争などでの財政負担やインフレなど生活条件の悪化に対する不満が増幅。そのなかで、複雑な国際関係を度外視して、「米国第一」を掲げるトランプ支持が広がっています。今回の国民投票で、トランプ氏は分離派を支持してきました。 戦後秩序の中核にある米英での状況は、「海外との付き合いを制限することで自国の利益を確保する」動きが世界レベルで広がっていることを象徴します。
さまざまな立場で交錯するナショナリズム
その一方で、「『自分たちの利益』の範囲や主体がどこか」をめぐって、それぞれの立場ごとに、考え方の違いが浮き彫りになりました。今回の国民投票において、スコットランドや北アイルランドで「残留」が支持を集めたことは、全体としての英国や米国などの「大きな主体」とは異なるレベルで、「自分たちの利益」と「自分たちの独立」を求める動きの現れといえます。これらの地域はイングランドの事実上の支配によって、もともと「自分たちの利益」が脅かされてきたと捉える傾向が強く、英国より一段高い位置にあるEUにとどまりながら、英国からの独立を求めようとしたのです。 これら「小さな主体」は、生き残りのためにむしろ、海外から影響を受けたとしても交流の活発化を望む点で、英国全体や米国と対照的ですが、それでも(彼らの場合はイングランド支配という)既存のシステムのもとで自分たちが不利益を受けており、「自分たちの利益」を回復するために「独立」を求めるという思考パターンにおいて一致します。 スコットランドでは、すでに単独でEUに残留する交渉を進める方針が打ち出されており、この動きはスペインのカタルーニャなど、各地の分離独立運動を活発化させています。英国のEU離脱は、これら「小さな単位」の独立を加速させる導火線になり得ます。