ロシアの「子なし推奨“宣伝”禁止」と日本の「結婚しなさーい」「ヨメにきなさーい」 怖いのはどちらか 北原みのり
このニュースを目にした友だちが、聞いた? ロシアってひどい国だよね! と私に同意を求めてきた。彼のちょっとウキッとした声のトーンに、「嫌いな友だちの悪口を言おうよ~」みたいなそんなものを感じたからか、私は、は? と少しだけ苛立った返事をしてしまった。そう? どこらへんがひどいの? 彼からすれば、まさか“フェミニストの北原みのり”からそのような反応がくると思わなかったのか、え! だってだってだってひどいじゃん! 子どもを持たない生き方を宣伝しちゃいけないんだよ! と重ねて言うのである。ふーん、と私は今度は静かに考えて、改めて、「で、だから?」と思ってしまったのだった。だって! 「じゃあさ、“子どもを持ちなさい! という悪質な宣伝”をどんどんする社会はどうなの? インターネットを使って、どんどんどんどん不妊治療しなさいと宣伝してくる国ってどうなの? 若いうちに卵子凍結しなさい、卵子凍結の助成金をあげますよ、とにかく若い卵子を取っておきなさいとか言う社会はどうなの? 結婚しなさーい、ヨメにきなさーい! と行政が若い女性を自分の村に誘致してお見合いパーティーするような、そんな国はどうなの? 結婚したら一つの名字で一体感を味わいましょうって強制してくる国、どうなの?」 ベラベラと一方的にまくしたてながら、やってしまった……と反省しつつも、なんだか最近、こういうこと多いなぁ~と思う。リベラルな人が、ロシアのことを「ロシアってヤベー国!」みたいなことを言いたがるのだけど、ロシアの怖さと日本の怖さって、種類は違うかもしれないけれど、比較したらどっちもどっちじゃねーの? という苛立ちが私の中に生まれているというか。 ロシアには、これまで3回旅をしたことがある。驚いたのは街に広告がないことだった。それは私が生まれてからこれまで半世紀以上の人生で、味わったことのない光景だった。日本にいると街中の空いたスペースは全て広告で使ってやろう、という広告会社の強い意思を感じる。生きていることとは買い物することである、というような方程式があるかのように、私たちは消費することを求められている。欲望をかきたてられ、コンプレックスを刺激され、買うことで幸せになるかのような錯覚によって経済が回るかのように。でも、ロシアでは、そんな広告がなくても経済が回っている。男性の尿漏れ防止・性機能向上グッズが日本の50倍売れている。何でよ……。