ABCマート摘発で高まる「ブラック企業」レッテルの経営リスク
さらに経営上のリスクとして、より大きな問題があるという。 「もっと困るのは、労働者を確保することが難しくなってしまうということです。景気が回復傾向にあり、少子高齢化で労働人口が減る中、ブラック企業とレッテルを貼られると、働いてくれる人材を確保しにくくなります。すると限られた人材に対して負荷がかかることになりがちですが、摘発された後に再度違法な長時間労働をさせることは出来ない。すると、店舗を閉めるしかなくなるということもありえます」 人材確保が難しくなり、実際に店舗を閉めざるを得なくなったのが、牛丼チェーン「すき家」を運営するゼンショーだ。ゼンショーは、「ワンオペ」などの過酷な労働環境を従業員に強いたため、従業員の確保が難しくなり、2014年多くの店舗の一時閉鎖に追い込まれた。 今回のように摘発されると、「ブラック企業」とレッテルを貼られ、売り上げが下がり、従業員を確保できないというリスクがあるということだ。
「労働環境の劇的な変化は難しい」
一方で重松弁護士は、今回の件で労働者の労働環境が直ちに劇的に変わるかは疑問だと指摘する。 「今回のエービーシー・マートの摘発は、企業側に何かしなくてはならないと思わせるきっかけになったかもしれませんが、法制度が以前と変わったわけではありません。価格競争による薄利多売といったビジネスモデルを考えても、企業側は、労働者の長時間労働に頼らざるをえないという面もあるかもしれません。そう考えると、直ちに劇的な変化があるかというと、企業側としては、難しい部分もあると言えます」 法制度やビジネスモデルが急には変わらない以上、今回明らかになった経営リスクを各企業がどれだけ深刻に受け止めることができるかが、違法な長時間労働問題の解決の第一歩となりそうだ。 (中野宏一/THE EAST TIMES)