外資による買収か非上場化か!? 地方高齢者が危惧する「社会インフラ」=コンビニの行方
一方で買収劇の成り行きに影響を受けることになるのは、われわれ生活者だ。近年コンビニは「社会のインフラ」としての機能が高まってきており、外資企業の手に渡れば経営効率化のために不採算店舗が一掃される可能性もある。 そうしたなか、特に大きな影響を受ける可能性があるのは、地方の高齢者の生活だ。 「役所よりセブン。セブンがなくなれば生活がままならなくなる」 不安そうに語るのは、群馬県の山間に住む79歳の飯島節子(仮名)さんだ。13年前に夫に先立たれ、40代の2人の息子はいずれも所帯を持って東京で暮らしている。車の免許は75歳の時に返納し、歩いて10分ほどにあるセブンイレブンが生活の中心になっている。 「ほぼ毎日通います。年をとると自炊するのも段々と億劫になってきて...。おにぎりやパン、お弁当、牛乳、何かしらを買いに出かけます。年金もセブンのATMからおろしてます。生活のすべてがそろっている感じです。自転車やバスに乗れば大型のスーパーに行けないことはないけど、体力的にもう厳しくなってきました。セブンがなくなったら生きていけません」(飯島さん) コンビニがこうした食料品などの生活必需品をそろえているのはもちろんだが、近年では行政機能も備えた文字通りのライフラインとしての機能が一段と高まっている。住民票の写し、戸籍や印鑑登録、納税などの各種証明書は、マイナンバーカードを使えばコンビニの端末で取得でき、こうした「コンビニ交付」は2023年、過去最多の3000万通に達している。 既にファミマは2020年11月、ローソンは今年7月に非上場化し、海外企業に買収される心配はない。その意味では業界1位のセブン&アイだけがこの円安環境にあって "狙われやすい"状況だった。仮にクシュタールに買収されれば、当然経営効率化で店舗の数を減らす可能性があり、そうなれば「社会のインフラ」を失うことになる。 事実、日本フランチャイズチェーン協会が2024年3月に発表した同年2月のコンビニ国内店舗数は、前年同月より0.3%減の5万5657店舗。前年を下回るのは2022年6月から21カ月連続という厳しい状況だ。 「MBOとか言われたって私にはよくわかりません。どこに買収されようが、私にとってコンビニは役所より大切な命綱なので、守ってほしい」(飯島さん) 一方で創業家主導の自社買収によってクシュタールによる買収が阻止されたとしても成功したとしても、不採算店舗の立場は微妙だ。自社買収に際しては、創業側はメガバンク3行から約6兆円の融資を受けるとの見方が伝えられており、金融機関から経営の合理化が求められるためだ。 地方に住む高齢者たちの切実な声は、"ホワイトナイト"に届くのだろうか。 文/山本優希 写真/adobe stock、飯能市