オードリー・タンが子どもを「役に立たない人」に育てたいと言うワケ…人を「モノ扱い」してはいけない
台湾のデジタル担当大臣にも抜擢された「若き天才」オードリー・タンは、役に立つか立たないかで子どもの学びの幅を狭めてはならないという。「役に立たない人になる」ことが、ひいては人間らしい働き方につながると説く真意とは……。 【一覧】入ると“損”する「私立大学」ランキング…コスパ最悪だった意外な名門大学 ※本記事は、『オードリー・タン 私はこう思考する』(かんき出版)を再構成・再編集したものです。
5年後には「16人に1人」が職を失う?
2021年2月にマッキンゼー・グローバル・インスティテュートが発表したリポートによると、新型コロナウイルスの流行により、リモートワークやeコマース、業務の自動化が一気に加速した。 同リポートによると、パンデミック以前、テクノロジーが労働市場に与える影響は中産階級に集中し、たとえ自動化が進んでも訪問看護や販売員といった低賃金の仕事はなくならないと考えられていた。 だが、パンデミックは人と人の距離を変えてしまった。多くのサービスがオンライン化へと向かい、その影響は労働者の未来を直撃する。 2030年までに、世界(マッキンゼーのサイトでは、アメリカ、スペイン、イギリス、フランス、ドイツ、日本、中国、インドの8カ国としている)では16人に一人が異なる職業に移行する必要があり、労働者の半数近くは新たな技能を身につけなければ職を失うと予測される。 劇的に変化する世界のなかで、人類はより多くの未知の現象に直面し、模範解答が見つからない場面も増えるはずだ。もはや個人の技能だけで時代の変化に対応するのは不可能だ。 また、社会のあらゆる機能が機械に移行していくなかで、機械でもできることを一生懸命学んでも、いずれ挫折を味わう日が来るだろう。今「役に立つ」と思われている知識も、1年後にはテクノロジーに取って代わられ、その業界が丸ごと消滅している可能性もあるのだ。 長い時間を費やして学んだ知識が、学校を卒業した途端に無駄になってしまうとしたら、学生たちの学ぶ意欲は大きく損なわれる。 オードリーが「子どもたちを『役に立たない人』に育てたい」と言う理由はここにある。 「役に立たない人になる」とは、あまり早くから特定の「用途」で自分を定義しないほうがいいという意味だ。学ぶ人を「モノ扱い」してはいけない。人は人であって「モノ」ではない。自分を道具とみなし、それにふさわしい技能を習得しようという考えは間違っている。 オードリーは荘子の『逍遥遊(しょうようゆう)』の一節を例に挙げる。大意はこうだ。恵施(けいし)が荘子に言った。「私の村に樗(おうち)の大木があるが、幹はこぶだらけで枝も曲がっている。木材としては使い道がないため、大工は見向きもしない」 それを聞いた荘子は答えた。「使い道がないと嘆くなら、その木を何もない広い土地に植えればよい。人々は木の下で涼み、のんびりすることができる。木材としては役に立たないからこそ、長年切られずにそこにあった。これはすばらしいことではないか?」 この荘子の言葉から学べることは何か。この世の多くのものは、何かの役に立つために存在しているわけではない。樗の木も、木材としては役に立たないからこそ大工に切り倒されることなく、生長して大木になれた。多くの人に涼をもたらし、心地よい時間を提供することも立派な用途なのだ。