伊藤詩織さん勝訴、刑事と民事で判断が分かれた理由とは
山口氏が告訴、伊藤さんも法的措置 検察の捜査の行方は?
では、伊藤さんは検察審査会に再審査を求めることができるでしょうか。確かに一審では山口氏が酩酊状態の伊藤さんの合意を得ずに性行為に及んだなどと認定されています。しかし、すでに検察審査会の議決を経ている場合には、再審査を求められない決まりとなっています。 検察による再捜査は可能でしょうか。不起訴と聞くと、それで完全に終わりであり、二度と捜査が行われないと思う人も多いでしょう。しかし、実のところ、不起訴処分後であっても、検察はいつでも独自の判断で再捜査を始めることができます。これを「再起」と呼びます。 関係者から新証言が出てきたとか、未発見の証拠物が発見されたといった場合には、事情の変化があったということで、再捜査を行います。時効完成は2025年なので、それまでは起訴も可能です。 もっとも、当事者の主張が激しく対立していますし、控訴審でどう転ぶか分かりません。民事で最終的な結論が出るまでは、検察が積極的に動くことなど考えにくいでしょう。 それでも、刑事手続はまだ完全には終わっていません。山口氏が伊藤さんを虚偽告訴罪や名誉毀損罪で告訴しているからです。伊藤さんはセカンドレイプ的な対応に法的措置をとるとのことです。山口氏を虚偽告訴罪で逆に告訴することも考えられます。 検察はこの事実について再び捜査を行い、白黒をつけなければなりません。民事裁判の最終的な結論を踏まえ、検察がいかなる認定をするのか、特に伊藤さんを不起訴にした場合、「嫌疑なし」を選択するのか否かが注目されます。 --------------------------------------- ■前田恒彦(まえだ・つねひこ) 1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。