現役小学校教員にとっての「中学受験」。今と昔、直前期の登校について
今年も2月1日(一部は1月中旬から)、中学受験生とその家族にとっての「決戦の日」が近づいてきた。小学6年生のクラスを担当する小学校教員は、そしてとくに公立小学校は児童たちの中学受験をどう考えているのか。気になるところでもある。 そこで以下、大阪府大阪市立豊崎小学校教諭の松下隼司氏に、小学校教員から見た小学6年生の受験について、そして受験期の登校について、ご寄稿いただいた。松下氏は教育関連の著書も多く、指導技術コンクールの受賞や、読売教育賞受賞、ダンス教育に関しての取り組みが評価されても文部科学大臣優秀教職員「社会に開かれた教育実践奨励賞」表彰歴(令和4年度)もある。 大阪の公立小学校教員歴22年目(2児の父親でもあります)の松下隼司と申します。 以下、小学校教員として、中学受験をとりまく環境の移り変わり、児童の受験と小学校教員との関わりの変化、そして、受験直前期の登校について など、思うことを紹介します。 1.中学受験する子の親から「金券」渡された経験 筆者が小学6年生だった35年ほど前は、中学受験をした友達は35人程度の学級で2人だけでした。あとは筆者も含めて、地元の中学校にそのまま進学していました。だから、中学受験をすることは、とても特別なことでした。「中学受験は、お金持ちで頭がいい人、おぼっちゃま、お嬢様がするものだ」というイメージを小学生・中学生の頃はもっていました。 筆者が小学校教員になった20年前も、担任する学級で中学受験をする子どもの数は、片手の指の数で足りました。もちろんその年によって微妙な増減はありましたが、学級の子ども全員がそのまま地元の中学校に進学する年もありました。だから、小学校教員になっても、「中学受験は特別なこと」と思っていました。初任校で小学6年生を担任した年の4月、家庭訪問に行きました。そこで、親御さんから、 「うちの子、中学受験をするんです。よろしくお願いします」 と、何かの金券を手渡されました。学校教員が保護者や業者などから、金品を受け取ることは公務員として固く禁じられています。今なら上手に断って、絶対に受け取らないのですが、当時、まだ若手教師だった筆者はどうしても断り切れず、学校に持ち帰ってしまい管理職に相談しました。そして、頭を下げて親御さんに返しに行きました。そういった経験もあり、中学受験は特別なことだという意識が強くありました。 でも、年々、中学受験は特別なことだという意識が薄くなってきています。その理由は、中学受験をする子どもが増えているからです。 10年ほど前から、小学6年生を担任した年、自分の学級で中学受験をする子どもの数が、片手の指では足らなくなったのです。中学受験に加えて、進学する公立中学校の選択制が導入され、地元の中学校に進学する子どもの割合が減ったと感じるようになりました。その年によって違うのですが、地元の中学以外に進学を希望する子どもの割合は、学級の4分の1から3分の1程度になっていると感じます。 若手教員だった頃は、1人で地元以外の中学校に進学する子どもを、1人でまわりに友達もいない中で大丈夫かな、楽しい中学校生活を過ごせるかなといろいろ心配に思っていました。でも、最近の小学生は、友達関係が広くなっています。塾などの習い事に通う子どもの割合も年々、高くなっているように感じます。スマホやゲーム機を持つ子どもの割合や低年齢化も年々、高くなっています。塾などの習い事やSNSを通じて、自分の小学校以外につながりがある子どもが増えています。地元以外の中学校に進学しても、知っている人が1人もいないということがなくなってきています。