有罪堅持か税収確保か 脱税告発率、5年ぶり目標値割れ 検察と国税の思惑に温度差も
国税当局が昨年度に査察調査した脱税案件のうち、検察庁への告発に至った「告発率」が66・9%と、5年ぶりに目標とする7割を下回った。脱税の告発は、国税と検察が事前に協議した上で行われるが、国税出身の税理士は「捜索を伴う査察調査が入っても3割以上が刑事事件にならないのでは、納税者から不信を買いかねない」と危惧する。なぜ、こうした状況が生じているのか。 ■告発=有罪 国税庁によると、令和5年度に税法違反(脱税)で全国の国税局が処理した件数は151件。うち101件を告発し、告発率は66・9%だった。7割を切ったのは平成30年度(66・5%)以来のことだった。 令和元年度以降、2~3年度は新型コロナウイルス禍で告発件数自体が減ったものの、告発率は4年間連続で7割を超える高水準を維持してきた。それだけに、国税関係者は「5年度は告発率が伸び悩んだ印象だ」と語る。 国税・検察が綿密に打ち合わせる脱税事件の告発後の処理は、他の刑事事件の処理と比較しても特殊といえる。 4年の犯罪白書を見ると、事件全体の起訴率(略式起訴を含む)は32・2%。うち道交法違反を除いた特別法犯(税法違反を含む)の起訴率は48・7%だったが、国税局が告発した税法違反の起訴率は100%だ。 1審判決での有罪率をみても、日本は「精密司法」と称されるだけに事件全体で99・25%と極めて高いが、国税局の告発事件は100%。「告発=起訴=有罪」という図式が成り立っている。 ■制裁税額に差 国税が査察調査中の脱税事件を巡っては、告発する前に検察と国税の両者による「告発要否勘案協議会」が開かれ、起訴が可能かどうかの検討が行われる。ここで「可能」とされたものだけを国税が告発するのが慣例となっている。 ただ、検察と国税では、告発する際の「思惑」にずれがあるのが現実だ。 税法上、刑事事件化されて故意に課税を逃れようとした「所得隠し」が認定されれば、制裁で課される税額は過失である「申告漏れ」より、はるかに高額になる。 こうした仕組みを念頭に、ある国税関係者は「私たちが重視するのは国の税収だ」と強調。告発により刑事事件化することが重要だとの認識を示す。