「十一人の賊軍」のチケット代2000円が安すぎるワケ 凝縮、スピード、迫力の殺陣
「今古有神奉志士」。この剣を持つ者は、昔からの神々を敬い伝統を重んじる志士である。映画「ラストサムライ」で勝元(渡辺謙)がオールグレン(トム・クルーズ)に与えた刀に刻まれた銘である。「十一人の賊軍」を表現するのに、これほど的確な表現があるだろうか。 【写真】第37回東京国際映画祭のレッドカーペットに登場したオープニング作品「十一人の賊軍」の出演者たち しかし、それが正しいと映画館で確認するには、二つの大きな制約がある。一つは、交通費を別にしても2000円の費用を用意し、上映時刻に間に合わせなければならないこと。同じ費用があれば、動画配信サービスで映画を好きな時間に見放題できる現実があるなら、なおさらだ。「自国の映画を応援しよう」「大切にしよう」などの当為論は、すでに説得力を失って久しい。金と時間をつぎ込むには、相応の理由が必要なのだ。
「時間が一瞬にして削られる」
それなら、これはどうだろうか。チケットを購入して客席に座れば、大型スクリーンと高性能のスピーカーを通じて、そのほとんどがフルオプションのホームシアターよりも格段に上質で、ましてやテレビ、あるいはパソコンのモニターと、ヘッドホンや小さなスピーカーが足下にも及ばない、極上の体験ができるのなら。そしてそこで登場人物に感情移入し、笑って、泣いて、究極のカタルシスを得られるならば。つまり「比べられない映画の魅力」を改めて感じられるなら。 プチョン国際ファンタスティック映画祭のプログラマー、金奉奭(キム・ボンソク)のアドバイザーとして日本映画を担当したことで筆者が縁を結んだ白石和彌監督は、2000円どころではない満足感を抱かせる監督であると断言できる。なにしろ、特有の演出力で、大資本の膨大な予算で製作されるブロックバスターに慣れ親しんでいる韓国の国際映画祭の観客たちに、「瞬削(一瞬にして時間が削られてしまう)監督」というニックネームで呼ばれたのだ。 「孤狼の血」以降、筆者は彼にインタビューを重ねてきた。人間的な関係性のため? NO、日本映画界の厳しい現実の中でやっと確保した製作費に対して、その何倍もの経済的価値を生み出してしまうことがその根拠と言える、面白さと完成度のためだった。