『海に眠るダイヤモンド』美術装飾が甦らせる昭和の情景 担当者に聞く
福岡ドーム(みずほPayPayドーム福岡)1個分に満たない敷地に、5,000人以上が暮らし、かつて日本一といわれる人口密度を誇った「海上の都市」――長崎県沖に浮かぶ端島は、日本の近代化を象徴する炭鉱の島として知られている。1950年代(昭和25年~)、学校や病院、高層鉄筋コンクリートのアパートなどが建ち並ぶ島では、密集した環境の中で独自の生活文化が育まれた。現在は無人となったこの島は、歴史的価値が認められ、2015年に「明治日本の産業革命遺産 ~製鉄・製鋼、造船、石炭産業~」の産業遺産群の一つとして世界文化遺産に登録された。 【写真】のちの夫婦に…朝子と”見つめ合う”虎次郎 1955年からの端島と現代の東京を舞台にした日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)では、この島で営まれていた生活や文化を忠実に再現するため、美術装飾チームが徹底した調査と作り込みを行っている。劇中に息づく昭和の風景は、チームの緻密な作業によるものだ。視聴者を物語の中へと引き込む舞台裏にはどのような物語があるのか。美術装飾担当の前田敏幸氏は、「端島の歴史や人々の生活を映像として再現するためには、これまで以上に細部にこだわる必要がありました」と語る。その背景にある努力と工夫を探る。 ドラマ制作における美術装飾の範囲は広範囲に及ぶ。まずは前田氏にその具体的な仕事内容について説明してもらおう。 「おもにスタジオセットやロケ地での飾り込みが中心です。たとえば、イスやテーブルといった家具の配置や、小道具の選定など、シーンの一瞬一瞬を支える役割を担っています」。実は、料理の状態の調整といった仕事もその1つだという。「フードコーディネーターと連携し、シーンに応じて『食べ始めの状態』『半分食べた状態』など細かく調整しています。料理の量や形状を変えることで、物語の進行やキャラクターの心情を視覚的に伝えることができるのです」。 今回の制作では、1950年代という時代背景を忠実に再現するために、さらに特別な工夫と調査が必要だったという。 1950年代の端島は、家電の普及率や生活インフラの状況が東京などの都市部と大きく異なっていた。たとえば、当時の東京ではテレビの普及率は約10%に過ぎなかったが、端島ではほぼ全世帯にテレビが普及していたといわれている。 一方で、川や湧水などの水源がない端島では、水道設備が整っておらず、1日に1回給水栓のもとへ行き、水券と交換に運んだ水を水瓶に溜めて、少しずつ大切に使っていた。このように、先進的な側面と未整備な部分が共存する生活環境が、端島特有の文化を形づくっていた。 「端島は高度経済成長期を迎える中で非常に特異な場所だったようです」と前田さんは言う。この特異性を映像で表現するため、セットや小道具には時代背景や地域特有の文化が細かく反映された。たとえば、物語初期では、台所に蛇口がない場面が描かれるが、1950年代後半の場面では水道が整備され、冷蔵庫やテレビなどの家電が部屋に配置されている。これらの細やかな変化が、時代の進化と生活の変容をリアルに伝える仕掛けとなっている。