知る人ぞ知る雑誌「月刊ドライブイン」が本に! 単なるガイドブックではない土地と人を知れるエモさが魅力(レビュー)
2019年に著者の『ドライブイン探訪』が出版されたときは興奮した。その少し前から買い続けていたリトルマガジン「月刊ドライブイン」の単行本化だと聞くやいなや購入予約をしたのをおぼえている。リトルマガジンは東京下北沢のB&Bという書店で出会い、一冊買ったらもう著者のファンになっていた。 今回この新刊を手にして、あの頃の自分が何を求めて「月刊ドライブイン」を買っていたのか、あらためてわかった。わたしは著者が紹介したドライブインに、どうしても行ってみたいと思ったわけではない。それなのに描写された「その場所」に激しく惹かれたのは、つまり、著者の視点と文章に惹かれたということだ。ドライブインをレジャースポットとして消費するのではない視点。ガイドブックとは対照的な文章だと感じたのだった。 この本では、著者は道後温泉や広島など、いわゆる観光地らしい観光地に足を運んでいる。そして、その土地に暮らす人たちの話に耳を傾けている。その人たちが「現在のこの町」を語るとき、そこには必然的に過去から現在への長い物語が含まれる。町のストーリーと個人のストーリーはからみあっていて切り離せない。著者の向ける視線は、そこに焦点が合っている。テーマは「場所」ではなくて「時間」なのだ。 人がどう努力しようとも逆らうことができないからこそ、時の流れはエモーショナルなものだ。いまはもうこの世にいない人間たちの楽しみや苦しみを我が身に重ねる行為をつうじて、人は人らしさを学んでいくのかもしれない。 著者にとって観光とは、景勝地を見ることではない。人に会い、その人が現在そのようにそこにある背景を知ることである。「あの過去」の結果として現在があり、未来は「この現在」の先にしかない。それがつまり、著者にとっての生きる哲学なのだと思う。 [レビュアー]渡邊十絲子(詩人) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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