オコチャ、カヌ、ババヤロ…“スーパーイーグルス”は天高く舞っていた。国民が血を流す裏側での悲痛な戦い
“スーパーイーグルス”にとって致命的だった負傷
それでもナイジェリア代表は確固たる足取りでワールドカップを歩み続けた。グループステージを中盤のオジェニ・オナジとジョン・オビ・ミケルの働きやエマヌエル・エメニケの得点力のおかげで突破すると、ベスト16での対戦相手はフランスということもあり好試合が期待された。国民を喜ばせたいという気持ちと、試合が行われるたびにナイジェリアでテロが起こるという苦悩のはざまで、“スーパーイーグルス”はブラジリアでの極めて重要な試合に臨まなければならない。 試合中、ゴールキーパーのビセント・エニェアマは躍動感あふれる活躍を見せた。特にポール・ボグバのボレーシュートをはじいたアクロバティックなセービングは見事としか言いようがない。後半になるとナイジェリアが試合を支配し、野心にあふれたその姿は1996年のオリンピックのチャンピオンチームを彷彿とさせた。ビクター・モーゼスの疾走、エメニケのシュート、エニェアマのセービング。 オナジの姿も際立ち始める。正確な左足を武器に中盤を支配していた。オナジが生まれ育ったジョス市(ナイジェリア中央に位置する都市)はその約1か月前に起きたテロ事件[訳注:118名が死亡するテロ事件が2014年5月20日に発生。ボコ・ハラムの犯行とみられている]によって、悲しみに打ち沈んでいた。オナジとしてもこの大会には並々ならぬ思いで臨んでいた。しかし後半途中、そのオナジにマテュイディが激しくタックルしてナイジェリアじゅうを震撼させた。無情なことに、オナジは脛骨を骨折して負傷退場となったが、その骨折の痛みは、仲間たちが前に進み続けることを助けられないがために感じる痛みの比ではなかった。 オナジの不在は、“スーパーイーグルス”にとって致命的だった。結局、試合に敗れてブラジルを後にした。ただし、胸を張って。 ナイジェリア出身で、同国の著名な文筆家の1人であるチママンダ・ンゴズィが語っているように、ナイジェリアは「脆い何本かのピンに支えられた、いくつもの民族の巨大な混合体」だ。この国の人々は、2億人もの人口を抱える国をいつ粉々に吹き飛ばすかわからない爆発性を秘めた均衡の中で生き延びながら、“スーパーイーグルス”が天高く舞うことを夢見ている。 (本記事は東洋館出版社刊の書籍『不屈の魂 アフリカとサッカー』から一部転載) <了>
[PROFILE] アルベルト・エジョゴ=ウォノ 1984年、スペイン・バルセロナ生まれ。地元CEサバデルのカンテラで育ち、2003年にトップチームデビュー。同年、父親の母国である赤道ギニアの代表にも選ばれる。2014年に引退し、その後はテレビ番組や雑誌のコメンテーター、アナリストとして活躍。現在は、DAZN、Radio Marcaの試合解説者などを務める。
文=アルベルト・エジョゴ=ウォノ