オコチャ、カヌ、ババヤロ…“スーパーイーグルス”は天高く舞っていた。国民が血を流す裏側での悲痛な戦い
「サッカーボールはイスラムを信仰する市民を分断する障壁」
ボコ・ハラムは、アフリカ西部で活動するイスラム過激派テロ組織である。宗教を言い訳に使い、また「宗教の浄化」を主張しながら、ナイジェリア一帯で残虐な行為を犯している。市民へのテロ行為は2011年以降暴力の度合いを増し、ナイジェリアでは200万人を超える国内避難民を生み出し、ニジェール、チャド、あるいはカメルーンへ難を逃れた亡命者は25万人を数える。もっとも衝撃的な出来事のひとつが国の北東部に位置するチャドで起きた、女学校の生徒300人を誘拐した襲撃事件だ。女生徒らはトラックに載せられどこかへ連れ去られた。この誘拐事件は各紙の1面を飾り、世界じゅうで報道され、後日ソーシャル・ネットワークでは#BringBackOurGirls(私たちの少女を返して)というハッシュタグであふれた。その後、西洋諸国の外で起きる残虐事件の大半と同様、そのボコ・ハラムの事件も世界で忘れ去られた。 そこから近い町バガでは、その数週間前にこのジハード主義組織の手によって100人のキリスト教徒が殺されている。テロリストたちはナイジェリアの北東部を支配下に置き、さらに支配地を拡大しようとしていた。 “スーパーイーグルス”は、国内で相次ぐ残虐事件のため、胃に重みを感じながら2014年のワールドカップ・ブラジル大会に臨まなければならなかった。ワールドカップでは偉大な役割を果たすだけでなく、国民の心からテロへの恐怖心をそらす一助となるべく戦わなければならない。ナイジェリアは前年(2013年)に開催されたCANで優勝を果たし、サッカー人気が復活したことでジハード主義のイスラム過激派グループをいらつかせていた。 当時のボコ・ハラムの指導者アブバカル・シェカウは、いくつかのビデオを流布させ、その中でサッカーは西アフリカ全土を堕落させている邪悪なものだと決めつけた。シェカウは言う、「サッカーボールはイスラムを信仰する市民を分断する障壁なのだ」と。コーランのどの一節にもシェカウの声明を補強するようなことは書かれていなかった。しかしこの男の指揮下にある組織の反応はすさまじかった。ワールドカップの試合が行われている間に、ナイジェリア各地で自動車爆弾が炸裂。通りの近くのオープンスペースに設置されたスクリーン周辺に殺到した住民がブラジルで行われている“スーパーイーグルス”の試合を観戦していると、相次いでテロの標的となって修羅場と化した。国民の血が流されるたびに、代表チームの選手はますます神経をすり減らした。