【日本代表】新キャプテン比江島慎が抱いた代表参加への葛藤「次の世代が僕らを超えていけるようになった方がいいんじゃないか」【バスケ】
悩んだ末の代表参加「僕がこのまま続けるよりも」
「今回、マコがキャプテンです」 11月13日に都内で行われた男子日本代表のメディアデーで、トム・ホーバスHCがサラッと言った言葉に集まったメディア、そして、取材を取り仕切った日本バスケットボール協会スタッフは驚かされた。 それはもちろん、富樫勇樹がこれまで同様にキャプテンを務めるのが“当然のこと”のように頭の中にあったからだ。そして同時に、富樫ではない選手の中から比江島慎が選ばれたことに対する意外性がその場にいた全員を驚かせた。 比江島は今回招集された23選手の中で最年長の34歳。大学生の頃から日の丸を背負い、10年以上が経った。特に鮮明に記憶に残るのが、昨年のFIBAワールドカップでの大活躍。ここについては改めて言うまでもないだろう。その勇敢なプレーとオフコートとのギャップが多くのファンの心を鷲掴みにした。また、豊富なキャリアがあるにも関わらず後輩選手たちからも容赦なくイジられるその姿は、佐々宜央アシスタントコーチから「組織の風通しをよくするタイプのリーダー」と評されていた。 ホーバスHCは比江島のキャプテン選出理由について、「彼は長い間、代表をやっている経験があるじゃないですか。今回は(宇都宮ブレックスのホームタウンの)栃木で試合があるから、もうマコがキャプテンだよ。富樫(勇樹)にもそういう話をしたら『ぜひどうぞ』という感じでした。全員がリスペクトをするじゃないですか。マコはあんまり話したくないとか、静かな人だから、『とりあえず話してよ』と思っています。みんな笑っていますけど」と話した。 再出発に際して、ある意味で“奇策”とも呼べる比江島のキャプテン抜てきは、初選出の選手たちを代表になじませるという意味では最適解なのかもしれない。以前、佐々アシスタントコーチが話していた「ベテランが近寄り難いような選手だったら、若手も硬くなってしまうかもしれないし、トムさんも女子から男子に来て、本来であればすごく気を遣うところです。でも、慎のようなキャラクターの選手が最年長なので、彼が風通しの良い環境を作ってくれている側面は間違いなくあると思います」という言葉が頭に思い浮かんだからだ。 だが、当の比江島は笑顔とも困惑とも取れない微妙な表情でキャプテン就任について「理由などは特に聞いていないんですけど、初めての経験なので今のところは無難にやらせてもらっています」と話し始め、こんなエピソードを明かした。「今日はディフェンスの説明をしてほしいとトムさんに言われたのですが、案の定、声が小さいというのと説明が遅いということで、途中で結局トムさんが説明したんですけど…(笑)」 比江島キャプテン体制は前途多難なようだ。それについて川真田紘也は「ダメですね!(練習後に)ハドルを組むんですけど、声かけもふにゃふにゃしていて。これまで富樫さんがキャプテンで富樫さんはもっとハキハキ言っていましたから、『一番年上なんだからもっとハキハキ言いなさい』と指導しておきました(笑)」と話した。だが、最も比江島と仲の良い選手一人である川真田だけに、やはり比江島へのリスペクトもある。 「でも、本当に尊敬する先輩ですし、代表経験も長いです。正直、比江島さんがキャプテンというのは僕も想像が付かないのですが、比江島さんは言葉よりもプレーで引っ張るタイプだと思っているので、試合になれば必ず力になってくれる人です。そういうところを見込んで(トムさんは)キャプテンにしたのかなと思っているので、頑張ってほしいと思いつつ、シャキッとしなさいよとも思っています」 比江島は常々、「パリ・オリンピックが代表生活の区切り」という話をしてきた。Bリーグの2023-24シーズンが終了した5月下旬にも、「僕の中では節目の大会で、若い世代にもすばらしい選手がたくさんいるし、僕が日本代表として貢献できるのはここまでかなと。パリ・オリンピックは日本代表としての集大成という位置付けだと考えています」と話していた。 JBAから公言されている通り、日本代表については「引退」という概念はない。だが、比江島らベテランにも次の世代にバトンを託すタイミングを決める権利はある。ホーバスHCは比江島と直接電話でやり取りもしたといい、「マコはとりあえずこの合宿はやります。でも、次は分からない」と話している。 では、比江島はどんな葛藤の末に代表合宿参加の決意を固めたのか。そう問うと彼はこう答えた。 「参加すると決めたのは(この合宿の)直前です。直前にトムさんと電話で会話をして、そこでも悩んでいる部分はありました。でも、こうして実際に会って顔を合わせて話して気持ちが固まったという感じです。悩んでいたのはやはり年齢。僕がこのまま続けて、若手選手や次の世代の選手が経験が積めないよりは、どんどんそういう選手たちに経験させて、次の世代が僕らを超えていけるようになった方がいいんじゃないかと考えていました」 自身が上の世代からバトンを託され、今こうして注目を浴びるようになった。だからこそ、この流れを途切れさせないためにも、このタイミングでつないだバトンを次世代に託していく。比江島はこう考えていたのだろう。 話は戻るが、キャプテンをすること自体が中学生以来だと比江島は言う。このWindow2が日の丸を背負う最後の機会になるかもしれないし、そうではないかもしれない。いずれにしても、“比江島新キャプテン”の一挙手一投足に注目が集まることになるだろう。
文・写真/堀内涼(月刊バスケットボール)