インテルCEOのゲルシンガー氏退任 過去最大赤字で事実上の引責
米半導体大手インテルは2日、パット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)が1日付で退任したと発表した。急成長する人工知能(AI)向け半導体の開発で後れを取り、7~9月期に過去最大の最終(当期)赤字を記録するなど業績が悪化していた。事実上の引責辞任とみられる。 取締役会が後任を正式に選ぶまでの間、暫定的にデービッド・ジンズナー最高財務責任者(CFO)ら2人を共同CEOに据える。 インテルは2日の声明で「我々は競争力回復に向け大きな進歩を遂げた。だが、まだやるべきことは多くあり、投資家の信頼回復に全力を尽くす」と述べた。 ゲルシンガー氏はインテル生え抜きのエンジニア。1980~90年代に市場が急拡大したパソコン向けCPU(中央演算処理装置)の開発で大きな成果をあげ、同社初の最高技術責任者(CTO)を務めた。2009年にいったん退社しIT企業の経営を指揮した後、21年にCEOとしてインテルに復帰した。 半導体の受託生産を増やそうと大規模な設備投資を決断したが、この分野では世界最大の「台湾積体電路製造」(TSMC)などが顧客を囲い込んでいる。受注獲得に苦しみ、製造装置への巨額投資が経営の足かせになった。 半導体の設計分野では、対話型AI「チャットGPT」の登場でAIブームが到来。新興のエヌビディアがマイクロソフト向けの先端半導体などで史上最高益をたたき出すのと対照的に、開発競争で出遅れた。 世界的に半導体の「製造」と「設計」の分離が進む中、ゲルシンガー氏は両分野に経営資源を分配した格好だが成果を出せなかった。新CEOは決まっておらず、市場では「『受託生産強化』の方針を変更するのかどうか、大きな戦略が見えない」(米アナリスト)などと先行きを不安視する向きもある。 インテルは7~9月期に四半期として過去最大の約166億ドル(約2兆4700億円)の最終赤字を計上。経営立て直しのため、8月には全従業員の15%の削減など大規模な経営合理化を発表していた。 インテルは90年代以降、マイクロソフトのパソコン用基本ソフト(OS)「ウィンドウズ」向けのCPUなどで世界市場を席巻した。だが、スマートフォン向けのCPUなどでライバル企業にシェア(市場占有率)を奪われた。 インテルの時価総額は足元で約1030億ドル。AI向け半導体で快進撃を続け世界2位に躍り出たエヌビディアの30分の1以下の企業価値となっている。11月には、米株価指数の代表格「ダウ工業株30種平均」の構成銘柄からインテルが外れ、エヌビディアが採用される新旧交代が起きていた。【ワシントン大久保渉】