「摂食嚥下障害」の原因や症状、治療法を歯科医が解説! 上手く食べられない・飲み込めなくなるのはなぜ?
摂食嚥下障害にはどんなリスクがある? 注意すべき「誤嚥性肺炎」との関係
編集部: 摂食嚥下障害になると、どのようなリスクがありますか? 藤井先生: 最も深刻なのは「誤嚥性肺炎」です。私たちが食事をするとき、誤嚥すると通常は反射的に咳をして気管に入り込んだ食べ物を吐き出します。しかし、摂食嚥下障害になるとその反射の力が弱くなり、食べ物や唾液に含まれる細菌が肺に到達し、肺炎を発症してしまうことがあります。とくに、高齢者の誤嚥性肺炎は重症化すると生命に危険が及ぶため、最大の警戒が必要です。 編集部: 誤嚥性肺炎のほかに、考えられるリスクはありますか? 藤井先生: 上手く食事ができないことにより、「低栄養」や「身体の機能低下」のリスクが高まります。加齢による筋力や機能の衰えは自然に起こる現象である一方、これらの衰えの中には適切な訓練や治療をおこなえば元の状態に戻せるケースもあります。年をとると体が衰えるのは「当たり前」「仕方がない」と思い込みがちですが、決してそうではないということをぜひ知っていただきたいです。 編集部: 「年のせい」という思い込みが、かえって衰えを進ませてしまうこともあるわけですね。 藤井先生: はい。まずは加齢による体の変化を自己判断で放置せず、その変化がどこに生じて、どの段階まで進んでいるのかを正しく評価することが肝心です。その評価から機能が落ちていると判定できる場合はそれを戻す訓練をする、歯が少ないのであればそれを補うなど対処すれば、衰えの進行を食い止めることができます。
摂食嚥下障害の診断・治療と口腔ケア、予防のポイント
編集部: 歯科医院では摂食嚥下障害の患者さんに対して、どのようなことをおこなっているのでしょうか? 藤井先生: 治療を始める前にオーラルフレイルに関する検査を実施し、現在の状態を評価します。具体的な検査項目に、舌圧や咬合圧の検査、咀嚼機能検査、患者さん向けの質問シートによる嚥下評価などがあります。舌圧や咬合圧、咀嚼機能については専用の機器を使って今の状態を数値化することが可能です。これらの数値を平均値と比較し、現在の状態がどのレベルにあるのか、どの機能が衰えているのかを判定していきます。 編集部: その評価の後、どのような治療をおこなうのでしょうか? 藤井先生: 機能が低下したところに応じた訓練やトレーニング法を患者さんに提供して、それをご家庭でも実施していただきます。また、むし歯や歯周病、歯がないことが原因で噛めない場合は必要に応じて歯科治療をおこない、噛む機能を回復していきます。その後、定期的に再評価しながら機能の改善具合を診ていきます。 編集部: 摂食嚥下障害の患者さんの口腔ケアや食事のポイントを教えてください。 藤井先生: セルフケアができる人はそれを徹底し、食後もできるだけお口をゆすいだり、洗口液でうがいをしたりして、口腔内を清潔に保つようにしてください。もし、セルフケアが上手にできない場合は、ご家族やヘルパーさんに協力してもらうと安全におこなえるでしょう。食事に関しては、食べ物の形態や性状を工夫して、その人にあったものを提供することで誤嚥を防ぐことができます。 編集部: 摂食嚥下障害は予防できるのでしょうか? 藤井先生: 予防できると思います。摂食嚥下障害については高齢になってからではなく、「50歳頃から口腔機能の検査を受けて、早めに対策をしましょう」というのが主流になってきています。また、繰り返しになりますが、加齢による衰えを当たり前・仕方がないと思わずに、歯医者さんで機能訓練を受けることも摂食嚥下障害の予防では非常に重要です。お口に何か変化が見られたら、口腔機能の検査や訓練を専門にしている歯医者さんを探して早めに相談していただきたいと思います。 編集部: 最後に、読者へのメッセージをお願いします。 藤井先生: 摂食嚥下障害は食事の問題だけでなく、栄養状態や全身の健康にも影響を及ぼします。自身ではその自覚がなくても、今ある体の不調が摂食や嚥下の問題から生じていることも少なくありません。食べることは生きることに直結しているため、何か少しでもおかしいと感じたら、年齢に関係なく早めに歯科医院で検査・診断してもらいましょう。