レバノン人が語る、イスラエルの攻撃にさらされるレバノンの日常
レバノン人の人類学者で文筆家のマリタ・マタール氏。ポールダンスをベースとするアーティストでもあり、自分を冗談めかして「ポールティシャン」と名乗る。ポリティシャン(政治家や政治に強い関心のある人)と、ポールダンサーをミックスした造語である。 【写真】2024年11月3日、イスラエル軍が西ベカーにあるソモール村を攻撃した ポールダンスは、しとやかで、つつましいほうが良いとされる女性が(特に中東、そして日本も…? )、のびのびと大胆に動いて男性を魅了しつつ、近づけさせないダンスである。それが氏を惹きつけるのだという。 自国のみならず戦争や人権に繊細で、日本の広島長崎についてもよく学んでいる。幼い頃に「はだしのゲン」を通読したのがきっかけだ。 パリをベースに活動しており、この夏にレバノンに帰省。9月の終わりにパリに戻ることができた氏と久しぶりに再会すると、氏は今まで以上に強いオーラをまとっていた。国が爆撃を受け続けるというどうにもならない強い悲しみと怒りが体内にあるが、それを覆うとする「だからこそ前向きに生きる」強いエネルギーが、彼女から発されていたからだと思う。「戦わない、強さ」が、そこにある気がした。 それでもその日、彼女がふと漏らした言葉は忘れられない。「私は今、この一瞬ごとに自分の国に破壊的ことが起こっているかもしれないと思いながら生きている」。氏の家族はカトリック教徒なので、現在のところ爆撃は免れているという。彼女の書く等身大のレバノンをお伝えする。(文:マリタ・マタール、翻訳:永末アコ) 最初に、日本とは反対側にある世界の端の、みなさんの国とは違う現実に、少しの間入り込んでいただけることに感謝します。 レバノンは地中海に面した、水や山々に恵まれた中東のレヴァント国家(地中海の東側沿岸国)の一つ。北と東はシリアと国境を接し、南は今日、イスラエルとして知られるパレスチナ占領地と接しています。 一般的に語られていることとは異なり、レバノンは多宗教国です。キリスト教徒やその他の教徒たちが一つの場所に混ざりあっている、というより、国家によって定められた18の宗教共同体が国内に存在しています。 この多様性は司法、政治、社会、立憲のシステムにも関連しています。伝統な協定の下、共和国大統領はマロン派キリスト教徒(レバノン人の主なキリスト教徒)、閣僚評議会議長はスンニー派(レバノンのイスラム教徒の多数派)、国会議長はシーア派とされています。 この教徒以外にもギリシャ正教やプロテスタントの分派もいれば、ドゥルーズ派、アルメニア人、クルド人、ユダヤ人コミュニティなどのマイクロ・マイノリティの少数民族も多数を占めます。 レバノンの地理が視覚化でき、民族的および宗教的な細かなモザイクが存在していることがわかると、たった1万452平方キロメートルの小さな国の、戦略的な地政学も理解できると思います。