【吉田恵里香さんインタビュー】作品のことと子育てのことが頭の中でせめぎ合い
マルチタスク時代の頭の中は忙しい! 私の脳内図
大きな話題を呼んだNHK連続テレビ小説『虎に翼』の脚本を担当した吉田恵里香さんが登場。LEE読者と同世代で、育児真っ最中でもある多忙さの中、あれほどの大作を生み出す彼女の脳内、気になります!
吉田恵里香さん〈脚本家〉
「作品のことと子育てのことが頭の中でせめぎ合い。仕事に傾くと、息子が敏感に察知します」 よしだ・えりか●1987年11月21日、神奈川県生まれ。脚本家、小説家として数多くの作品を執筆。代表作に、ドラマ『虎に翼』『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』など。『恋せぬふたり』では第40回向田邦子賞を受賞。 Instagram:yoshidaerika1121 X:yorikoko
『前橋ウィッチーズ』
アニメ作品の構成・脚本も担当している吉田さん。最新作『前橋ウィッチーズ』は群馬県前橋市を舞台にした、魔女を目指す5人の高校生の青春物語。少女たちがさまざまな悩みと向き合い、成長していく姿が描かれます。2025年4月から放送開始予定。
吉田恵里香さんの脳内図:頭の中の9割は、仕事と子育てのこと。社会への怒りが執筆の原動力に。親しい人との会話が日々の癒しです
「仕事と子育ての割合はグラデーションで常に変化。私はニュースを見ると大体怒っているのですが、この怒りを見逃さずに問題意識を持つことが作品への原動力に。ドラマや映画など、エンタメを観ることも仕事につながっています。息抜きに、収集している“食べ物イヤリング”や子ども服をネット通販でポチったり、会えない友達とLINEで会話を楽しむことも」
脚本家として多くの作品を生み出し、最近では朝ドラ『虎に翼』の脚本で注目を集めた吉田恵里香さん。4歳の男の子の母でもあり、育児と両立しながらあの超大作を書き上げたのだそう……! 頭の中の大半は、作品のことと息子さんのことが占め、常にせめぎ合っていると言います。 「仕事の忙しさなどによって、頭の中の割合は流動的に変わりますが、仕事の分量が多くなると、息子が敏感に察知するんです。機嫌が悪くなって、パソコンを開いていると私のひざに寝転がってきたりして(笑)。まだまだ突発的な体調不良もあるので、例えば、金曜日の朝に鼻水が出ていたら、週末になる前に早お迎えして病院に連れていくか、でも仕事も残っているし……なんて葛藤することも。そこで迷ってしまう自分も嫌だし、本当にバランスが難しいなと。夜に仕事を再開したくても、息子の体力がついてきたこともありなかなか寝てくれず、一緒に寝落ちしてしまうことも多いです」 寝かしつけの時間に生まれたのが、即興でのお話作り。 「絵本を読んでいた流れで自然と始まったのですが、息子の名前と機関車を合わせた“○○くんポッポ”が主人公。『○○くんポッポ、恐竜の星に行く』とか、ゲームのピクミンが好きなので『○○くんポッポ、ピクミンの星に行く』などとシリーズ化しています(笑)。出だしだけ『あるところに○○くんポッポがいました。小さいけれど力持ち、友達思いで明るくて元気で強い、とってもやさしい汽車ポッポです』という定型文を作り、その後は自由にストーリーを。途中で息子にも振って『そこに現れたのは~?』『カブトムシでした!』などと話をつなげさせることも。明確な終わりやオチがあるわけじゃなくて、息子が飽きるか寝るまでという感じで、3歳まではほぼ毎晩親子で楽しんでいました」 普段から会話や言葉でのやりとりは、とても大切にしているそう。 「『思ったことは言わないと伝わらないよ』といつも話しています。今朝も理不尽な怒りをぶつけられたのですが、『ママのパジャマの脱がせ方が、雑で怖かったからぁ』と息子なりに説明しようと頑張っていました。『察して』より、屁理屈でも言うほうがマシだと思っているので、家族にも思いを言葉で伝えようと心がけています」 好評のうちに幕を閉じた『虎に翼』。強くて人間らしい主人公と、さまざまな境遇の女性の生き様が描かれ、共感を呼びました。 「主人公の寅子(ともこ)は仕事に邁進して自分の道を切り拓いていくけれど、時には間違えるし、自己犠牲はしたくないと利己的な面もある。寅子が周囲の人から影響を受けて変わっていく、という描き方にしたいなと。寅子のそばには、働きたいと思ったこともなくて専業主婦として家族をケアする花江や、自分を曲げずに正直に生きるよねがいたり。誰がいい・悪いではなく、自分の歩みたい道に進むことこそが正しいから、そこは意識しながら、いろいろな立場の女性を描くようにしました」 また、ジェンダーやLGBTQ、夫婦別姓など、多くの社会的なテーマを取り上げた想いとは? 「作品の中でどこを切り取るかだと思うのですが、これまで“そこにいるのに透明化されてきた人たち”のことを描いただけなんですよね。どの問題も令和の今に始まったわけではなく、昔から続いていること。過去に議論し尽くされずに、次の世代にバトンが渡ってしまっているだけだと思うんです。少しでも考えるきっかけになればいいなと思いますね」 放送中、SNSにアップされた“食べ物イヤリング”も話題に。 「食品サンプルが好きで、おにぎりやハヤシライスなどの食べ物のイヤリングを集めているんです。放送後に、SNSでその日のお話に合ったモチーフのイヤリングの紹介を。ひとつ作品を脱稿したら買い足しているので、今回もネットで探しているところです」 Staff Credit 撮影/田上浩一 ヘア&メイク/杉山えみ イラストレーション/オザキエミ 取材・原文/野々山 幸(TAPE) こちらは2024年LEE12月号(11/7発売)「私の脳内図」に掲載の記事です。