「問う力」と「見極める力」が重要なスキルに--ベネッセ、教育現場の生成AI活用を考える
ベネッセホールディングスは、教育現場における生成AI活用の効果と課題に関する説明会を開催した。説明会に登壇した、ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター長の小村俊平氏は、AIを高度に使いこなすためには「問う力」と「見極める力」が重要になると説明する。 新型コロナウイルス感染症の拡大後、不登校や不登校傾向の児童・生徒が増え、さまざまな支援が必要な生徒が増加しているという。ベネッセでは、生成AIを使うことで、より個に応じた対応ができるようになるほか、教員の業務負荷の削減や生徒の学習の質を向上できるのではないかとしている。 実際に、教員は文書・報告書などの要約・作成や生徒の習熟度に応じた課題の作成、新たな授業案のアイデアの具現化などに生成AIを活用し始めている。生徒は、レポート作成において文字数の調整や誤字脱字の修正、またAIを相手に面接や英会話の練習に生成AIを活用しているという。 一方で、生成AIを教育現場で活用する際に考慮すべき点は多々ある。文部科学省の「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン」に示される情報モラル教育など、生成AIをどのように使うかという知識は大前提に持つべきだと小村氏は指摘する。加えて、「生成AIを活用することで、処理は楽になり、自動的にできるようになってくる。その時に差が付くのが何かというと、生成AIによる処理の前後にある」と同氏は説明する。 前の処理というのは、「問う力」のことで、これは生成AIに「何を問うか?」という投げかけるセンスや、「どう問うか?」というプロンプトエンジニアリングの力になるという。「こういったスキルテクニックは重要だが、その上で実は最も大切なのは、『なぜ問うのか』という意欲や動機だ」(小村氏) 後の処理は、生成AIが処理したものを「見極める力」のこと。出力されたものが「正しいのかが分かる知識」「善いか悪いかが分かる倫理」、画像や動画生成において「美しいか分かる感性」、研究などで利用する際にありきたりなものを出さない「新しいかが分かる専門的な知識」が重要になるという。 同氏は、問う力と見極める力を、学校や家庭の学びの中でどのように培っていくかが今後の生成AIと教育を考える上で大きな論点になるだろうと説明した。 説明会に登壇したベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター 主任研究員の庄子寛之氏は、教育現場での生成AI活用が広がることで、教員は「ティーチャー」から「ファシリテーター」に転換していくと指摘する。生徒が生成AIに問題の解説や質問、類題の作成を繰り返すことで行動データが蓄積し、生成AIの精度が高まりサイクルが生まれる。そこで、教員はファシリテーターとして、生徒の進捗(しんちょく)度合いの管理やモチベーション管理、個別指導などに注力できるのではないかと庄子氏はいう。 元小学校教員だった庄子氏は、ベネッセ教育総合研究所でも自治体や学校向けの研修・講演、また生成AIを活用した授業を実践してきた。その中で、生成AIの活用が適切でないと考えられる場面として、情報モラルや活用能力が育っていない段階での利用や、読書感想文・コンクールなどで生成AIによる制作物を自己の作品として使用してしまうこと、また創作など、感性や独創性を発揮させたい活動で最初から用いることを挙げた。また教員側も、教員が答えるべき場面で安易にAIに回答させることは避けるべきだと主張した。 他方、活用が考えられる例として、誤りを含む生成AIの回答を教材に、その性質や限界を生徒に気付かせる活動ができるという。また、グループの考えをまとめたりアイデアを出したりする活動の際に、足りない視点を見つけて議論を深めるための活用や、英会話や面接の相手にも生成AIを用いることができるとする。 同氏は「生成AIはあくまでツールで、授業の中に生成AIをどう入れるか、もしくは入れなくていい場面で強引に入れないことも大切。特に小学校では教員しか使用できず、児童の手を止めて教員に注目してもらう必要がある。その時間をできる限り短くできるように、教員が生成AIを使う時間を絞る必要がある」と説明する。 また、生成AIをクラスの中に新しい視点を与える「転入生」としても使えるという。先に答えを出してしまうと、クラスの中では同じ意見が出てしまいがちになる。そこで生成AIでアイデアを引き出すことで、児童の思考が広がるきっかけになるのではないかとしている。 同氏は最後に、生成AIを授業で活用する際はガイドラインの順守は徹底しなければならないと強調する。「私たちも生成AIを使うことには賛成。しかし、慎重にすべきことは慎重にする。やってはいけないことはやってはいけない、というところは守っていきつつ、日常生活での使い方の注意点をしっかり伝えていく必要があると思っている」と説明した。