音楽ファン垂涎のレコード店、ホテル、ディープなカルチャースポット巡り【オースティン音楽旅行記Vol.3】
テキサス州の州都、オースティンの魅力を音楽ファン目線で掘り下げた観光レポート連載(全4回)。第3回はおすすめのカルチャースポットを紹介。最高のレコードショップとブックストア、絶対に行っておくべきテキサス州屈指の観光名所、音楽カルチャーへのリスペクトに満ちたホテルを案内する。 【画像を見る】ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高の500曲」 「Keep Austin Weird」とはうまく言ったものだが、オースティンを特別な都市たらしめているのはライブミュージックだけではない。街を歩けば発見とサプライズが待っている。前回は6th Streetの東側で終わったが、今回は同ストリートの西側と縦に伸びるLamar通りの交差点からスタート。
West 6th Street:極上のレコード店と書店とカフェが揃う一画
「あらゆるタイプの音楽好きにとっての楽園。この象徴的なレコードショップはジャンルとA-Z順の区分けを採用しており、何時間でも余裕で過ごすことができます」 オースティン観光局のシンプルな説明がすべてを言い表している。Waterloo Recordsは夢の楽園だった、以上。もはや魅力を語ろうとすることすら野暮に思えてしまう。ベタ褒めしたくなるポイントが余りにも多いのだ。 本題に入る前に、歴史的背景について触れておこう。テキサスは1836年にメキシコからの独立を宣言し、その後アメリカに併合されるまでの9年間を「テキサス共和国」として過ごす。その過程で、1837年に設立された「ウォータールー」という小さな集落が新首都の建設地に選ばれると、イギリス系アメリカ人の入植を推し進めた「テキサスの父」スティーブン・オースティンにちなんで、1939年に現在の名称へと改められた。 お店のロゴが(キンクスの名曲「Waterloo Sunset」でも有名な)ロンドンのウォータールー駅に由来するのも、オースティンの郷土史を踏まえたもの。SXSWより5年早い1982年にオープンし、街の音楽文化が花開く前からシーンを支えてきたWaterloo Recordsは、600平方メートルもの店舗で様々なジャンルを扱いながら、今も売り場でテキサス出身ミュージシャンを積極的に紹介している。 それにしても広い。品揃えも尋常ではない。目利きによるセレクトが棚の隅々まで冴え渡り、店頭に貼られたポスターの数々も守備範囲の広さを示している。新譜なら毎月のおすすめをまとめた「In the Groove」、旧譜ならスタッフの個性が光るセレクトなど、レコメンドが丁寧かつ信頼できるので次から次へと欲しくなる。さらに各ジャンルの棚、CD棚、中古の箱……と掘りだせば、誇張抜きで何時間あっても足りないだろう。 音楽関連のグッズも手広く扱っている。個人的に嬉しかったのはTシャツの充実ぶり。一時期はバンドTをよく海外通販していたものだが、最近は円高のせいで送料が高すぎて二の足を踏むことが多くなった。でも、Waterloo Recordsならポンポン買える。これでもかと買った。 サイン会、リスニングパーティー、生パフォーマンスといったインストアイベントにも精力的で、SXSW期間中はライブ会場に早変わり。筆者の友人はここでFrikoを観たそうだし、過去にはウィリー・ネルソン、ニルヴァーナ、セイント・ヴィンセントほか到底挙げきれないほどの顔ぶれが出演している。 この一画は近所の充実ぶりも凄まじい。Waterloo Recordsの隣には24時間営業のアメリカンダイナー、その名も24 Dinerがあるので腹ペコでも安心。Uberのおっちゃんも「ここは間違いないぜ」と絶賛していた。オースティン発祥のオーガニックスーパー、ホールフーズの旗艦店も目の前にある。 クールダウンしたければ最高のカフェバーに寄ろう。Better Halfは市内でも指折りのコーヒーやカクテルが楽しめるお店。「パートナー」を意味する店名は、ビールとハンバーガーが売りの隣接店Hold Out Brewingとニコイチであることに由来し、気分次第でどちらも味わえる。木目調をベースとした店内はやさしい雰囲気で癒された。屋外の広々としたパティオに座るのも落ち着くだろう。 さらに出来過ぎな話だが、Waterloo Recordsのそばには極上の本屋も存在する。 BookPeopleは1970年に創業した独立系書店。2階建てのなかに書籍がぎっしりと並び、「ジャンルに貴賎なし」で創造性に富んだコーナーを展開する。階段にはイベントで訪れた人気作家の写真がいくつも飾られており、読書家にとっての聖地であることは疑いようがない。 店名はレイ・ブラッドベリ『華氏451』に由来し、スローガンは「本でつながるコミュニティ」を創出すること。キッズ向けに読み聞かせやワークショップを行なうなど、地元住民の交流や教育の場にもなっている。音楽本の並びも壮観で、フィリップ・グラスのピアノ練習曲全集に手書きのポップがついているのも文化レベルの高さに感動した。 ここでもう一つ歴史を辿ると、「Keep Austin Weird」という合言葉は、BookPeopleとWaterloo Recordsが大型チェーンの参入に反発し、ローカルビジネスのサポートを呼びかけたことが起源にある。自分たちの文化をDIYで築くオースティン精神が、素敵なカルチャーの楽園を生み出したという話はもっと知られてもいいと思う。