「青木率」でみる安倍内閣 まだ安泰? 改憲と解散のジレンマ
北朝鮮情勢の緊迫化を受け、「夏休み」を短縮した安倍晋三首相。休暇先の山梨で小泉純一郎元首相、森喜朗元首相らと会食し、政治情勢などについて話し合ったとされています。内閣改造で内閣支持率は上向きましたが、不支持率が支持率を上回る状況は変わっていません。今秋の解散説も取り沙汰される中、政界で語られる「青木率」という指標を踏まえ、憲法改正を目指す安倍内閣の今後を、政治学者の内山融・東京大学大学院教授に展望してもらいました。 【写真】都議選圧勝で国政進出は? 小池氏に残された多くの“オプション”
内閣改造で支持率は上向く
8月3日に行われた内閣改造を受けて報道各社が世論調査を実施したが、いずれの調査でも安倍内閣の支持率は微増した。7月の調査と改造後の調査での内閣支持率はそれぞれ、読売新聞によれば36%と42%、朝日新聞では33%と35%、日本経済新聞社とテレビ東京では39%と42%などとなっており、いずれも数ポイントの上昇が見られる。 今回の内閣改造は支持率低迷を打開するためものだといわれていた。支持率の劇的な回復こそなかったものの、少なくともこれ以上の低下を食い止めたという点では所期の目的を達したといえよう。林芳正文科相、小野寺五典防衛相など、問題のあった省の大臣に安定感のある政治家を配置した点、安倍首相と距離のあった野田聖子氏を総務相に据えて寛容さとバランス感覚を見せた点、首相が自らの「おごり」を認める反省の弁を述べ、低姿勢を強調した点などが評価されたと考えられる。
「青木率」と内閣交代の関係
さて、政界関係者の間ではしばしば「青木率」と呼ばれる数字が話題になる。「青木率」とは、自民党参院幹事長や参院議員会長などを歴任した青木幹雄氏が唱えたとされる指標で、内閣支持率と与党第一党の支持率を合計した数値である。この数値が50%を下回ると政権の存続が危なくなるといわれている。科学的な根拠のある理論と呼べる性格のものではないが、経験的に得られた知恵として関係者に広く受け入れられている説である。以下、これまでの青木率と内閣交代の関係をざっと見た上で、安倍政権の今後を展望したい。 青木率の算定に当たっては、NHKの政治意識月例調査のデータを利用した(NHK放送文化研究所ウェブサイト)。ウェブサイト上で入手可能な1998年4月以降の青木率をグラフ化してみた。急病で退陣した小渕内閣(その後逝去)、高支持率を保ちつつも自発的に退陣した小泉内閣を例外として、ほとんどの内閣が青木率の急激な低下から程なく退陣していることが読み取れよう。ここから青木率と内閣交代には一定の関係があることが分かる。 50%が内閣存亡ラインであるとの説については、橋本内閣の青木率が50%を下回った直後の参院選で自民党が大敗し橋本首相が退陣したこと、福田内閣が50%割れの後に内閣改造を行ったもののすぐに辞職したことなどから、一定の妥当性があるようにも見える。ただし、青木率が50%を下回っているにもかかわらずしばらく内閣が存続する場合も幾つかあり(森、麻生、菅、野田の各内閣など)、50%が本当に内閣存亡ラインといえるかどうかは検証の余地がある。 この点で注意したいのは、青木率は「自己成就的予言」の性格を持つことである。自己成就的予言とは、ある予言について、それが客観的に未来を予測しているわけでなくても、皆がそれを信じてそのとおりに行動するために、結果的にその予言が実現することを指す。たとえば、ある銀行の経営が実際には健全でも、「あの銀行は破綻する」という噂が世間に広まると、皆が銀行に殺到して預金を引き出そうとして取り付け騒ぎが起こり、本当にその銀行は破綻してしまうかもしれない。 これと同様に、「青木率が50%を割ると政権が危ない」という説が広まっていると、ある政権の青木率が50%を割ったときに、その政権を倒そうという動きが与党内外で活発化する可能性が高まる。つまり、50%という数字に客観的な根拠があるというよりも、青木率の高低が政治家や関係者の行動に影響を与えるために50%という数字が意味を持ってくるということである。いずれにせよ、青木率と政権存亡の関係についてはより厳密な検証が必要だろう。