新東京が語る、幾何学的なサウンド、メタ的な視点をテーマにしたコンセプトEP
ハンガーにマイクをかけて、洋服を吸音材にしながら、ボーカルを録った
―歌詞は、曲が出来上がった段階で乗せるんですか? 杉田:いや、先に詞があります。(田中と杉田の)どっちかが持ってくることもあれば、一緒に話し合って決めることもあるんですけど、そのテーマから割といろんなパターンで、若干Aメロっぽいな、サビっぽいなみたいなフレーズから作詞したり、小説の一節みたいな散文を書いてみたり、単語の羅列だったりとかいろんな形式のメモがあって、それをトシに渡すと形にしてくれるので。そこでできたフォーマットに2番とかを合わせていったりします。だから詞先といえば詞先だしそうじゃない部分もあります。 ―「This Reality」も杉田さんが歌詞を書いてますね。 杉田:前回のアルバムにもあった、“表現することを厭わない”みたいなテーマがちょっと引き継がれてるんです。何の制作経験もなかった自分が新東京に加入して最初のシングルCDを作るまでの経緯だったりとか、表現したことがないからって言って諦めたんじゃなくて、アーティストと一般人の違いとかを気にせずに踏み込んだ結果、得られたものとか。今こうして新東京として活動していることで固定観念を壊したりしたっていう意味で、1つ上の次元に進んだって解釈していて。表現する前の自分と、そこから表現をするようになった時の次元の変化っていうのを、自叙的なタッチで書いてます。歌詞にクローゼットの話が出てくるんですけど、(“クローゼットの中 シニカルなリアルを嘆いて”)「This Reality」のデモって、トシの家のクローゼットの中でRECしたんですよ(笑)。 ―えっどういうことですか? 杉田:クローゼットの中は洋服がいっぱいかかってるので、ハンガーにマイクをかけて、洋服を吸音材にしながら、ボーカルを録ったんです。それが新東京の始まりだったりしたので、そういう要素も入れつつ作ったのが、「This Reality」です。 ―面白い発想しますね(笑)。田中さんはどんな音像を考えていたのでしょうか。 田中:音像という意味では、ベースのハーフミュートで、ベロシティ(音の強弱)をデカく弾かないように、本当に触るぐらいの感じでベースが耳元で聴こえてくるみたいな音像を出したかったんです。MIDIで最初にベースラインを作ったんですけど、そのMIDIデータは音量が0から127まであるんです。その中で10ぐらいの音量で絶対弾くようにすると、音量も小さいんですけど、そこから音量をグッと上げるとそれ以外の空気感がより上がってきて、本当に耳元で響いている感じが出るんです。「This Reality」ではそういう部分を意識して作りました。 ―田中さんの頭の中に、全部の楽器パートの演奏が浮かんでいる? 田中:基本的にはそうですね。ミックスも自分がやるので、それを前提にアレンジを考えたりします。 大蔵:ライブのときはまた違うんですけど、レコーディングに関して言うとなるべくオーダーに忠実に弾くようにしています。自分はクリエイティビティにはあんまり関わらないって言ったら何ですけど、なるべく作曲者の意向を尊重したいと思っているので。 ―「New Dimension」は、それこそ幾何学的で速い曲ですが、どんなことを考えて作ったのか教えてください。 田中:これは一番最初にできた曲で、EP『新東京 #5』を4曲で1つとすると、提示部にあたる曲を想定していました。なので、EPのテーマを大きく見て歌詞を完成させて、音像やアレンジに関してもEPを象徴するような位置にしようと思いました。 ―これはまさに、新次元の新東京の入口という感じですよね。めちゃめちゃ速いし、演奏の難易度は高そうですね。 保田:Zepp Shinjukuでやろうって話しているところですけど、かなり難しいです。自分は演奏しながらその曲のテーマを考えたりすることはないんですけど、やっぱり音数が多いので、一音一音、意識が下がっちゃうと演奏がグチャグチャになっちゃうので、丁寧な演奏を心がけてやろうと思ってます。 ―「Mirror」も他の曲と同様に田中さんのデモから始まってるんですよね。歌詞も田中さんが書いていますが、どんな意味を込めていますか。 田中:「Mirror」は「n+1」と近しい曲なんですけど、僕たちが創作物をどう作っても、それを鑑賞する側には干渉できないっていうことをどうにかしたいなと思っていて。それこそ、「n+1」の中で、聴いている人に話しかけるとかももちろんそうなんですけど、それの一種で、僕たちが「鏡」というプロダクトを世に出したらどうなるかなと思ったんです。鏡は鑑賞者そのものを映し出すので、僕たちが生み出したn-1という意味ではnに最も近い存在かなと思っていて。グッズでも、鏡面でいろんなものを作ったり、CDのジャケットも鏡面にしようとか思ってます。ジャケットとも関連があるんですけど、僕たちがVRゴーグルをつけているっていうのは、VRゴーグルの中身って第三者が作った別の世界じゃないですか? その中では、創造主の物理が働いていてどんなことでも起こりうる世界だと思うんですけど、それを牛に体験させている僕らと、その中にいる僕だけがカメラ目線に気づいているんです。これは、今世界の人たちがジャケットを見ているっていうことに対してちょっと気づきを得ているっていう表現です。さらにそれを見ている自分が鏡に映るっていう。「数学的帰納法」じゃないんですけど、工夫すれば順番に上に上がることができるよっていうことを表現しています。