250万人のファンの“熱量”とトークンを掛け合わせる──ファンクラブ運営会社がIEOで目指すものとは?
圧倒的なIEO事例を
──投資家として、そうしたWeb3の状況をご覧になっていて、この先はどのように展開すると予測していますか。 熊谷:間違いないことは、Web3単独のイノベーションはもうある程度見えていて、これから先はマスアダプション、つまり一般の多くの人たちの生活に馴染んでいくフェーズに突入していきます。我々もそうした取り組みを投資先、支援先として応援したい。技術的な進化で多くの人たちがWeb3を使えるようになることはもう当然のこと。大事なことは、中長期での成功を一緒に描けるかどうかです。短期のトレンドを追っていると、市場の影響などコントロールできない要因で終わってしまうこともあります。中長期で取り組み、暗号資産のサイクルを超えて、しっかりと積み上げていけるチームかどうかが重要だと思います。 日本のエンタメビジネスは世界的に見ても、非常に強く、これまでの歴史やノウハウがあるからこそ、Web3でさらにエンパワーメントできます。既存のWeb2ビジネスをWeb3ビジネスとしていかに構築していけるかという点でも注目すべき取り組みです。 ──アーティストは新しいWeb3ビジネスにどのように関与していくのですか。 佐藤:基本的には現状のサービスをトークンを使って拡張し、スペシャルサービスを提供してもらうことを考えています。今は利益をしっかり得られていない可能性があると思っています。 例えば、ファンクラブの中でアーティストにブログを書いてもらっても、毎日書けば会員が2倍になるかというとそうではありません。しかし、アーティストの言葉とか、ブログのコンテンツを切り出したときに価値を感じる人がいるはずです。そういうものをスピンアウトさせていくことが大事だと思っています。 ただし、今までなら「そこまではできない」と思っていたことを、この期にやってみるような可能性はあると思ってます。日頃バンドで活動しているアーティストがトークン保有者だけにアコースティックで弾き語りライブをやるなどを、トークンがきっかけで考えてくれるかもしれません。 ──最初に手がけてくれるような具体的なアーティストのイメージはお持ちですか。 佐藤:濃淡があって、Web3、NFTというワードに対して敏感なアーティストは、すでにNFTを出品していて、Web3にも理解があります。秋元先生もすでにIEOプロジェクトに関わっているし、その周辺にいる人たちも反応がいい。そこから伝播していくことも期待できます。 エンタメ業界に限らず、成功事例は非常に重要です。ファンクラブで言えば、この10年くらい「Fanplusなら、うまく行く」という評判が広がっていると自負しています。今回の取り組みも多くのアーティストが一斉に取り組むというよりも、良い成功事例を作ることができると、一気に広がるでしょう。一点突破が重要なので、最初に誰と手がけていくかはいろいろ考えています。 井坂:今回の取り組みは、音楽業界を超えて広がっていくだけでなく、さらに、すでにしっかりとした基盤があるところにトークンを掛け合わせていくことのパイオニア的な事例になると感じています。 熊谷:Web3は一般の人たちも含めたクリエイターをエンパワーメントできるツールやプラットフォームになっていきます。我々の取り組みはひとつの象徴的なモデルケースになり、例えば、地方の活性化などにも応用が可能になると思います。 ──その一方で、最近「クリプトの『終わりの始まり』」とおっしゃっていますが、その本意はどこにありますか。 熊谷:暗号資産業界だけでの単独プレイのような時代はもう終わりました。トークノミクスも、アイデアはもう出揃っています。ですが、現状はまだそれが実装できていない、運用できていないことが課題です。 そのためには単純に業界内でプレイしているのではなく、より広い社会の中で日々のライフスタイルに浸透させるとか、大規模な産業の中でビジネスユーザー向けの2Bのツールとして取り入れられることが必要です。スタートアップが取り組みやすい領域と、既存ビジネスが取り組みやすい領域があり、Web3は既存の経済とつながっていない、まったく新しいものだけではなく、連続性の中にも答えがあると思っています。既存の経済をエンパワーメントしていく基盤だと捉えた場合、スタートアップだけではなく、大企業のプロジェクトにも投資したり、支援することに大きなチャンスがあると考えています。 佐藤:我々の取り組みが発表され、この記事が出たときにはビックリする人もいると思います。ですが、エンタメ業界、音楽業界において「何か新しい未来を切り拓いている」と感じてもらえるようなサービスを作っていきたいし、そう伝わるといい。まだ時期尚早に感じる人がいるかもしれませんが、5年後10年後には「あのスタートがあって良かった」と言われるようなものにしたい。 熊谷:個人的には、多くの人たちの生活が変わっていく様子を実感できると一番ワクワクします。今回、こんなに大きなチャンスはないと思っているので、アーティストの活動はもちろん、ファンの人たちの毎日が変わるような新しい驚きを届けていきたい。 もうひとつは「圧倒的なIEO事例」を作る必要があると思っています。投資家の立場で言うと、日本のWeb3投資はまだ活況とは言えません。個人投資家を巻き込んだIEOによる資金調達をもっと盛り上げて、市場を形成していく必要があります。そのためには圧倒的に大きなロールモデルを作ることが重要で、それをぜひ一緒に作っていきたいと思っています。 |インタビュー・文:増田隆幸|トップ写真:左からEmoote代表取締役の熊谷祐二氏、Fanplus代表取締役の佐藤元氏、コインチェック副社長執行役員の井坂友之氏(撮影:小此木愛里)
CoinDesk Japan 編集部